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成人教育部会・学習会報告
2002年4月26日
まちづくりと成人教育
〜 教育を通したまちづくり

(報告) 花立 都世司(ともにあゆむ釜ヶ崎識字教室もじろうかい)

大阪市で社会教育主事という専門職として働いている。釜ヶ崎の識字教室等には、ボランティアで関わっている。最初の職場が西成解放会館(現西成人権文化センター)で、そこで担当した識字教室が私の社会教育観に大きな影響を与えた。ただ、当時はまちづくりの観点が弱く地域の力を十分生かせなかった。

 社会教育事業として行われている講座等では、社会問題について学んだ後に自主グループ化や社会活動への参加していくことがめざされているが、まちづくりの文脈の中に位置づけて地域を変えていく方向性は弱かった。他方、部落解放運動が、まちづくりを実践してきたが、教育事業は、制度として確立していくなかで逆にまちづくりとのつながりが薄くなったという側面がある。

 私が特に関心のある、またボランティアで関わっているまちづくりは、一般的なまちづくりでは取り組まれることの少ないマイノリティのエンパワメントをめざした主にテーマコミュニティに関わるものだ。つまり、社会教育でいうところの積極的不平等という格差を解消する観点から、誰のためのどんなまちづくりか、そこでは多様性が保障されているか、ということが、まちづくりにおいても重要だと思っている。

 現在の釜ヶ崎は、仕事がなく高齢化が進んでいる。労働運動に加えてこれまで以上に福祉系の活動が必要になってきている。そのなかで1999年に誕生したのが「釜ヶ崎のまち再生フォーラム」(以下フォーラム)で、その緩やかなネットワークのもと、簡易宿泊を改造し共同リビングを設けサポート・プログラムを実施しているサポーティブ・ハウジングのオーナーや医療や福祉に関わる施設の職員などが、居宅保護を勝ち取った人が二度と野宿生活に戻らないよう支援していくこと等、福祉やまちづくりの取り組みを始めている。

 西成解放会館に勤めていた頃から釜ヶ崎には識字教室が必要だと思っていたが、釜ヶ崎と関わる機会がなかった。2年ほど前に友人の水野阿修羅さんの誘いで、居宅保護を勝ち取った人の当事者組織「つきみそうの会」に関わりはじめ、1年ほどした頃、その会員を対象に識字教室を開くめどがたった。丁度その頃、フォーラムで識字教室の話を色々な人にしていると、賛同して協力を申し出てくれる人が現れ、会場としてより広い場所を提供してくれることになった。そのため、スタッフを募集する必要性が生じ、識字ボランティアを養成する釜ヶ崎ボランティア養成講座を、実行委員会をつくりフォーラムの協力も得て実施することにした。

 第1期は、参加型の7回の共通プログラム(釜ヶ崎スタディーズ=釜ヶ崎学)の後、「識字ボランティア・コース」「生きがいづくりコーディネーター・コース」に分かれた各3回のプログラムからなる(参加費7000円)。修了後の出口として、識字コースは教室の開設準備から関わり、生きがいづくりのコースはサポーティブ・ハウジングの住人の生きがいづくりに関わる実際の活動の場を用意した。

 第2期は入門コースと位置づけ、春休みに学生が参加しやすいように日程を圧縮し、出口では既存の釜ヶ崎の各団体などがやっている活動を紹介することとした(参加費5000円)。第1期のサポーティブ・ハウジングの住人中心になっていたプログラムを変更し、野宿者と接する機会をもうけるために炊き出しと夜回りを組み入れた。

 第1期の修了生とともにつくった「ともにあゆむ釜ヶ崎教室もじろうかい」は3月2日に発足、釜ヶ崎の簡易宿所のオーナーから太子福祉館を無料で借り、毎週土曜日の2〜4時に約15名の参加者(定期的には8〜9名)を迎えてボランティア養成講座修了者約10名とともに行っている。前半の1時間強は一対一・小グループでの話し合い学習、お茶の休憩を挟んだ後半は、全体でテーマを決めてワークショップを行う。

 もう一方のコース修了後、料理教室、車いすの人の散歩、菜園での野菜づくりの三つの活動が始まったが、諸事情でそのコースのコーディネーターが修了後の活動に関われなくなってしまったため、当初目標としていた事業を継続することが難しい状況である。コーディネーターが必ず必要だというのが教訓である。

  学び・ボランティア系の学び系の核には識字教室と釜ヶ崎ボランティア養成講座を位置づけているが、ボランティア系の核が必要だと思っている。今秋には第3期の講座を第1期・2期の修了生とともにつくるべく準備している。今回は第1期と同じスタイルで、修了後の出口としてボランティア系の核となる事業をつくっていきたい。今考えているのは「元野宿者とともにつくる夜回り」「小規模作業所づくり」等。

 現在のところボランティアは女性が多いのに対し、参加者は男性が多く、セクシュアルハラスメントが一つの問題、ボランティア活動におけるセクシュアルハラスメントについても取り組んでいく予定である。

 そのほかに進行中の活動としては、コーディネーターを常駐できる程度の資金づくりをめざす「釜ヶ崎における学びとボランティアを応援する会」、ボランティア養成講座に参加してくれた地域の職員をネットワークする「パラリーガル研究会」(設立の準備中)等がある。

 社会問題の解決をめざすまちづくりの取り組みにおいては、教育を入り口にすると参加してもらいやすい。今回のボランティア養成講座は、幅広く新たな人に釜ヶ崎に関わってもらえる入り口をつくれた点は大きいと思う。そのような人材を活動に継続的に参加してもらうためにも、事業化するという出口まで視野に入れた教育プログラムが非常に重要である。

(熊谷 愛)