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部会・研究会活動 <成人教育部会>
 
成人教育部会・学習会報告
1998年9月21日
地域における成人教育

(報告)上杉孝實(京都大学教育学部)

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 部落を中心とする成人教育のあり方をテーマに据えて考えていくにあたり、上杉孝實さんからイギリスとの比較を交えながら成人教育について原論的な考え方を紹介いただいた。以下、その概略を述べる。

 日本では社会教育という語が一般的なのに対し、イギリスでは、成人教育、青少年教育というカテゴリー分けをする。成人教育者には、人生経験を積んだ1人の成熟した人格としての学習者に対する尊敬の気持ち、学習者と人間関係を形成しながらの個別的な対応が求められ、成人教育は、各人の経験を尊重する意味で、10数人から30人までの少人数で個別的継続的に行われるべきだとされる。

 日本でも講座終了後に自主的学習グループが生まれるケースはあるが、イギリスでは、学習者が自分自身を表現し、さらには学習者自身が運営に関わって計画し自主的に運営していく自信をつけ、教育の担い手になっていくことが期待されている。ジェルピのいうeducation by allであり、成人教育のポイントである。

 もうひとつ重要なのが、英語でいうrelevance、その人にとって(生活に)「関連のあること」「今ここに持っているもの」を出発点とし、大事にするということである。

 イギリスには、十分に学校教育を受けられないまま子育てを終え、社会に出たいという中年期女性たち対象に、セカンドチャンスのコースがある。そこでは、自己表現のための様々な方法、職業の種類とそこに入るために必要な力、(例えば学校に入り直す場合の)基礎的な学習の方法(文章の書き方、図書館の利用方法、…)など、週1回まる1日かけて、半年から1年学ぶ場合が多い。

 近年イギリスでは、成人教育がコミュニティエデュケーション(地域社会教育)のかたちで広がりだしている。学校教育を十分受けられなかった労働者への補償教育から出発した成人教育は、伝統的には中流階級に親しみやすい学校型教育の延長だったが、移民・女性・底辺労働者・失業者など被抑圧者に焦点化して、学習機会を保障するために、必要としている人々の間へ、地域の中へと入り込んでいくアウトリーチの考え方が出てきた。

 学習者個別の問題とともに共通する課題について、学習グループをつくり、その解決と結びつける学習を進めていくのが、典型的な手法である。その場合、地域の問題が独立に存在するのではなく、失業問題や住宅問題にしても景気変動や各種の政策など広い社会の影響を受けているという視点につなげる学習が重視される。

 日本ではもともと学校型成人教育が弱く地域社会教育に焦点があったといえるが、階級が見えにくいため、成人教育の対象も明確にしないままにきたという側面があった。しかし部落問題や女性問題への取り組みが進む過程で、対象を明確にした学習も増えてきている。

(熊谷 愛)