今回は、滋賀県甲良町のグラウンドワークによるまちづくりの取り組みを、これまで部会で取り上げてこなかった農村型の一事例として報告いただいた。以下、概要をまとめる。
滋賀県東部に位置する甲良町は総面積の約半分を水田が占め、人口約8,500人(うち約4割が被差別部落住民)という典型的な小規模農村型の町である。1985年以降、「住民参加」をスローガンとする町政の転換のなかで、身近な環境問題に行政・住民・企業がパートナーシップをもって取り組む新しいまちづくりのシステムとして1980年代英国で誕生した「グラウンドワーク」にもとづき、住民自身が学び・実践するまちづくりが定着してきた。
同和行政を進めるにも財政が豊かでなく負担が大きい甲良町で、町中に張り巡らされ、農業だけでなく日常生活で生かされてきた水路が地下パイプライン化されるという計画が持ち上がったことが、住民自身が「環境と開発」を考える契機となり、今日の「町民に開かれた行政」「せせらぎ遊園のまちづくり」に結びついていった。
13ある集落それぞれに農業と結びついた自治があるという地域的特性の上に、1990年、「むらづくり委員会」が新たに設置された。「住民・行政・専門家のパートナーシップ」のなかで、専門家のリーダーシップが大きいとはいえ、行政が「補助・制度の活用」「情報提供(事例や専門家の紹介)」「人的支援(測量から会議運営のノウハウまで)」の側面から住民を支援し、集落整備の計画段階から住民参加による構想づくりが行われた後、行政・専門家による検討を経て、実施設計が協議される。
また、1984年に専門家を招いて学習を行ったのが端緒となり、集落を超えたまちづくりリーダー養成の場として「せせらぎ夢現塾」が1991年に制度化された。塾生自身の運営によって専門家とのパートナーシップを築きつつ、実際の計画の策定に結びつくような学習を積み重ね、卒業生のほとんどは地域リーダー・サブリーダーとなっている。2001年度に終了し、2004年度末の市町村合併を視野に入れた「バサラ学校」に引き継がれる予定である。
「せせらぎ夢現塾」と「むらづくり委員会」の間に、学習と実践の循環構造がつくられ、既存の集落組織とは別の「まちづくり」に目的を絞ったネットワークの形成が、集落全体の活性化、集落自治の復興の効果を生み、計画立案の中心となる地域リーダーから実際の工事で力を発揮する人まで、住民参加の形に多様性を生んでいる。
しかし、女性や子どもの「むらづくり委員会」への参加が少ないという課題があるし、「住民主体のまちづくり」が、当初は行政の立場から住民を「主体化」することにならざるを得ないとか、専門家と住民の「パートナーシップ」における学びの豊かさや広がりが、実際のまちづくり計画策定に結びつけるという目的意識の高さゆえ、逆に制約されるという面もあろう。
「せせらぎ夢現塾」では直接的な人権学習が行われているわけではないが、まちづくりの共同の取り組みを通じて部落の内と外の関係はよい方向に変化してきているほか、1980年代半ばまでは同和対策事業が中心で一般公共事業が抑制されがちだったことから見られた「ねたみ意識」も改善されつつあるし、1999年度策定の第二次総合計画では「まちづくりの柱」に「人権尊重」が盛り込まれた。