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成人教育部会・学習会報告
2003年6月13日
成人教育にかかわる概念・理論を整理する

上杉孝實(龍谷大学)

 今回は、成人教育部会が昨年度まとめた報告書『自己実現・社会参加への誘導要因―効果的な成人教育の企画・運営のためのケーススタディ』に掲載された上杉孝實さんの論文「成人教育の概念と理論」の内容に関して、参加者からの疑問・質問に回答いただくというスタイルで進めた。以下、簡単に質疑応答の内容を紹介する。

Q:成人教育と子どもの教育の関係について

イギリスで子どもの教育が制度として整備されるのは19世紀の後半で、それまでは上流階級だけが家庭教師をつけて学べた。子どもから大人へと順に教育を積み上げていく発想ではなく、大人を対象としたバイブルを読む教育が18〜19世紀に行われるようになった。労働者のために1850年には無料の図書館もつくられ、19世紀後半から20世紀にかけて、それまでの「労働者教育」「民衆教育」に代わって「成人教育」の語が定着するとともに、階級色が薄められた。

Q:日本では、社会教育に含まれることもある「影響といった『非意図的な作用』」について

ヨーロッパではギリシャの影響が強く知育が中心であり、イギリスでは労働が禁止された子どもたちの居場所として学校がつくられた経緯があるが、日本では従来の寺子屋など民衆レベルの教育と切り離れたものとして学校が登場した、ということも、社会教育の概念をもたらした。

Q:ラベットの「コミュニティ組織化型」「コミュニティ開発型」「コミュニティ行動型」「社会行動型」の教育の4類型について

ラベット自身は段階説ではなく、4つの「種類」と言っている。上から下に行くほど発展型であるともいえるが、実際には必ずしもこの順序をふむ必要はない。これら4つを組み合わせて取り組むこともある。解放運動でめざされたのは社会行動型といえる。

Q:コミュニティ教育と施設の関係について

施設への囲い込みではなく、成人の活動と青少年の活動を結びつけ、職員は地域に出ていくべきだとの議論が、1970年代に入る頃出てきた。地域をベースとして行われる教育がコミュニティ教育である。

 イギリスにはコミュニティセンターのほかに成人教育の機関として継続教育カレッジやコミュニティカレッジがあり、ドイツなどでは文化活動の拠点として社会文化センターがあり、日本では公民館がコミュニティセンターとコミュニティカレッジの両者を兼ね備えるが、後者のようなスタッフは乏しい。

Q:「ソーシャルワーク(social work)」と「教育」「事業」との関係について

青少年のさまざまな活動はソーシャルワーク、ユースワーク(youth work)の一環。日本は教育を精神運動に結びつける傾向があったが、教育は計画的でまとまりのあるものという欧米的な教育観からすると、青少年活動は社会事業とする方がなじみやすい。教育を生活と結びついたものとするには、社会事業の要素を入れることも重要な意味がある。

Q:成人基礎教育について

識字や計算とともに、生活(特に職業生活)のうえで必要最低限の知識・技能を保障する教育。イギリスなどではスキル(skill)の概念が重視されるようになっている。(情報、コンピュータ、法…)リテラシーといわれるものが、身につけるべき内容と考えられる。

Q:成人教育者育成について

日本には社会教育主事という資格があるが、イギリス・ドイツ等では、チュ−ターとしてトレーニングを受けることが中心となる。大卒(相当)者を対象とするパートタイムまたはフルタイムの、大学の成人教育学部や継続教育学部でのトレーニング(教育実習を含む)がある。

(熊谷愛)