前回の部会(8月11日)に引き続き、今回も事例研究として、住吉人権文化センターにて成人基礎教育の位置づけで取り組まれた「初心者のためのパソコン講座」について、主催者、ボランティア、受講者それぞれの立場から報告いただいた。以下、主催者を代表する小林さんの報告を中心に、その内容をごく簡単にまとめた。
2001〜02年に各地で行われた文科省のIT講習は6日間・12時間の全国共通プログラムで、ローマ字未習得・IT機器に対する抵抗感などに対処することなく一律にカリキュラムをこなすため高齢者の間に多くの脱落者を生んでおり、元教師からも「難しい」との感想を聞いた。そこで、民間のパソコンスクール出身の講座担当者を中心に、需要はあるのに取り残されがちな高齢者を主な対象として、ごく初心者向けのパソコン講座を企画することにした。
本講座では、プロのパソコン講師が一段上から指導するのではなく、パソコンをある程度使えるという市民に、自身がパソコン操作を覚えていく過程で得た経験やコツをそのまま指導に活かし、「共に学び成長する」という姿勢で講座を運営してもらうことにした。そのためにまず、講師・受講者両方の立場を体験する模擬授業を交えた「パソコンボランティア講師養成講座」を実施し、ボランティア講師としての受講生との接し方やコミュニケーションの方法、パソコン・トラブルへの対処法を身につけてもらった。
計40名の募集に対して130名もの応募があった本ボランティア養成講座を通じて、40名のボランティア講師が誕生し、住吉人権文化センターのパソコンルームで、週3回2時間×20回・5000円の「初心者のためのパソコン講座」を開始した。2002年夏の初回は夜コース(定員10名に150人の応募)のみの設定だったが、秋冬以降は朝・昼コース(定員各10名)も加え、今年は、春のボランティア養成講座を挟んで夏の講座が行われている。朝コースの希望が多いが、働いている人からは夜コースの需要もある。
「国のIT講習は進度が速くてわからない」「ローマ字入力が難しい」といった声があり、受講者のスキルやパソコン所有の有無など個人差が大きいことから、受講生全体を対象にするメイン講師とともに、各受講者の疑問・質問に即対応できるようサブ講師を配置した。サブ講師を一クラスにつき二人程度つけることで、講師が一人休んでも余裕をもって対応できる体制になっている。
進行は進度が最もゆっくりした受講生に合わせ、前半を復習にあて後半で新しい単元に入ることを基本にしているが、復習だけで終わることもある。個人差を無視した目標到達のためのカリキュラム優先ではなく各人がのびのび学習できるよう、基礎からのローマ字学習でローマ字入力をマスターすることを目標においたほかは、常にカリキュラムの修正と見直しをしながら進めることを重視した。その結果、無断欠席も中途での脱落も皆無である。
講座の後半に向けて「中間ミーティング」と称するボランティア講師同士の意見交換の場を設定して、コースの枠を超えて互いの経験に学び合い、受講生の意見をくみ上げることで運営の改善に努めている。受講生からはプラス評価が多かったが、例えば、特定の受講生にサブ講師がつきっきりなのが気になるといった意見があったり、人とのコミュニケーションが苦手で質問しづらそうな受講生に対して、休憩時間に雑談を通して話しやすい関係をつくるようにしたのは最良の方法だったのか、という迷いもある。全コースに統一されたカリキュラム・教材がまだ作成できておらず、今はまだ試行錯誤の連続である。
現在、修了生70名の集まりを計画している。さらに上級レベルの講座に対する修了生の要望は多いものの、本講座でパソコン操作の基礎を習得すれば、あちこちで開かれているパソコン講座を受講できるはずであり、私たちの講座はあくまで成人基礎教育に徹するという立場から、ステップアップ講座の開設は予定していない。
識字で「文字を書く」のは力を要する大変な作業だが、パソコンならキーを打つだけ、漢字もマウスで描けば意味や読みがわかる等のメリットがあり、識字・日本語教育の面からも有効である。受講後に日本語を勉強したいと考えるようになった台湾出身者のケースもあった。なかでも「ローマ字を勉強して駅名のローマ字表記が読めるようになった。これから景色が違って見えそうやわ」という受講生の言葉は最大の収穫だった。
少し先にパソコンを始めて少し多く知っているだけという姿勢で臨むことで、講師自身、受講生から学び(例えば、キーボード上の大文字「A」と画面上の小文字「a」とが頭の中で対応しない、「p」と「q」の区別がつかない等)、受講生の意欲に励まされ充実感に満ちた時間を過ごしている。高齢者のパソコンへの需要は増すなかで、ボランティア希望者の熱意を活かし、人権文化センターとしてすべての人の「学ぶ権利」を保障していきたい。