2000年創設のT市男女共同参画推進センターでは、2001年度に「結婚とライフステージ ジェンダーフリーの視点から」の統一テーマによる5回の連続講座、2002年度に「労働とジェンダー」の統一テーマによる5回の単発講座がいずれも市民企画で実施されてきた。2003年度は「人間関係」の統一テーマで市内外からの応募者6名(女性4名・男性2名)全員が市民企画委員として採用され、男女各1名の職員も加わり、月に1-2回、報告時までに10回の講座企画委員会が重ねられた。
第1回会議では、「税金を使うので公共性を念頭に置く必要があり、限られた予算内でいかに効果的な事業をつくるかがポイント」等を交えた職員による趣旨説明があり、15万円の範囲内で講師料を賄い、講師選定・折衝からチラシ作成まで委員会が行うことに決まったが、講座を継続型・単発型のいずれにするか、対象に男性を入れる否かの論点について、2委員の間に意見対立が見られた。
第2回会議は市民からの持ち込み企画の紹介、様々な情報収集の必要性の確認の後、各委員が継続型にするか単発型にするかで問題意識を述べた。参加対象に男性を含めるか、自発型か動員型かへと議論は広がったが、啓発的な講座は動員型でも気づきを得る人がいればよいとの結論になった。
第3回会議では、各人が持ち寄った他施設でのプログラムを参考にして検討を始める前に、出前講座ではなく市民に広く開放された講座であるべき、との1委員からの意見が承認された。プログラムについて、グループ形成を目標においた欠席者からの提案をもとに議論されたが、高度な内容で対象者が限定されたプログラムは難しいとの意見が支配的であった。
第4回会議では、前回提案を否定された委員が、参加者を多く見込める講座など存在するのか、との疑問を提出し、その議論の過程で「介護」「ひきこもり」「恋愛」の3テーマに絞られていった。
第5回会議では、3テーマに関する他の講座プログラムの紹介の後、講座回数と謝礼に関して、3万円×5回にとの意見に対し、安価で講師を引き受けてもらう場合があってもよく、3テーマ×2回にとの意見でまとまり、各テーマの担当を決め、各々講師候補にアプローチすることに決まった。
第6回会議では、謝礼が出ない、欠席者があるといった委員会のあり方への不満が1委員から表明され、それに対する本委員会の趣旨および委員の発言責任の確認と改善策の提示の後、「ひきこもり」企画の具体化が進められた。
第7回会議は「ひきこもり」企画に関する詳細の詰めの後、「介護」企画の講師に関する担当委員からの提案と協議がなされ、介護者のほとんどが女性という制度・仕組みを1回目の総論のテーマとすることで合意された。
第8回会議は、「ひきこもり」チラシのリードの検討の後、「介護」企画に関する協議過程で、担当委員・講師の介護におけるジェンダー認識の希薄さが明確になり、職員から問題点が指摘された。
企画委員会における市民企画委員と職員、各委員間の相互作用に着目する際、委員会内のミクロな権力関係のみならず、委員会外の行政の意向や男女共同参画に対するバックラッシュ等マクロな影響も考慮に入れる必要がある。
今回、プログラム計画の意思決定において5つの力の作用をモデル化したカファレラのプログラム計画理論等を参考に、グローバル・レベルの影響や様々なレベルの葛藤を加味した図式化を試みた。
「講座企画委員会をめぐる影響要因」では、「議会での議論」「住民運動の力関係」がカファレラ・モデルの「地域社会と社会の信念」に、「企画委員の関心」が「プログラム計画者の個人的な信念」に、「男女共同参画推進センターの使命」が「教育部門信念の表明」「組織の信念」に、「職員の関心」が「専門職の倫理コード」に対応しているが、「他の生涯学習関連施設の動き」と「講師の力量と都合」を加える必要を感じた。
「講座企画委員会出席者の影響力」では、自らの男性としての「生きにくさ」の経験から終始議論をリード、「介護」「ひきこもり」「恋愛」のテーマを挙げつつ、第2-3回の欠席から自らの関心を「介護」に反映させるにとどまった委員A、長年の女性学の受講経験をもとに議論をリード、「介護」「ひきこもり」「恋愛」の講座プログラムを紹介しリソースパーソンとして貢献した委員F、「講座を通じて何を伝えたいか」の重要性を伝え、第8回でAの認識の偏りを正すなど常に職員としての専門性を発揮して議論をリード・制御した職員G、の3名のキーパーソンに注目した。
最後に、
- 学習者のニーズ調査の必要性
- 職員の専門性の育成
- 企画委員の待遇と力量
- プログラムのPlan-Do-Seeの全過程を通じた成功・不成功の評価
の4点を今後の研究課題に挙げたい。
(熊谷 愛)