調査研究

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2005.05.16
部会・研究会活動 <成人教育部会>
 
成人教育部会・学習会報告
2005年3月16日
若者の困難
―社会的に不利な立場に置かれたフリーターに対する生活史調査から

内田 龍史(部落解放・人権研究所)

 今年度二回目の部会では若年未就労者の実情をまず知ろうと、若年未就労者問題研究プロジェクト(2003〜04年度)の一環で部落の若者を含む若年未就労者の実態把握のために行ったフリーターに対する2003年度のインタビュー調査にもとづいて、内田龍史さん(部落解放・人権研究所)に報告いただいた。概要を紹介する。

 フリーター増加の背景には、不況による若者の正規雇用の削減と、グローバル化にともなう製造業からサービス業への産業構造の転換、すなわち中卒・高卒層の受け皿だった製造業の海外移転、フレキシブルな労働力としてのパート・臨時雇用が求められたことがある。こうして、若者が「使い捨て労働力」としてのフリーター(‡錘ク業・半失業)となっている。

 フリーターとは、内閣府の定義によれば「15〜34歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職の人」で、1992年の190万人から2001年には417万人、厚生労働省の定義では「年齢15〜34歳、卒業者であって、女性については未婚の者とし、さらに・現在就業している者については勤め先における呼称が『アルバイト』又は『パート』である雇用者で、・現在無業の者については家事も通学もしておらず、『アルバイト・パート』の仕事を希望する者」で、1992年の101万人から2002年には217万人とされ、正社員として働かない/働けない層が急増している。

 フリーターになりやすいのは、学歴・出身家庭の経済的背景などが相対的に低い階層出身の者であることが指摘されており、明らかに階層的不平等の様相を呈している。

 2003年度の「大阪フリーター調査」は、学校から社会への移行における危機にある若者の現状を把握し、(1)フリーターに至ったさまざまな背景、(2)小中・高校やそれ以外の場でのキャリア教育の重要性、(3)アウトリーチ的な就職支援の必要性を明らかにすることを目的に行われた。

 対象者は、部落解放同盟大阪府連各支部(5地区)を通じて26名(男14、女12)、府立高校(進路多様校2校)の進路指導の先生を通じて14名(男6、女8)、うち部落出身1名の、15〜24歳40名である。実査は2003年4月〜10月、対象者一名につき1〜3時間、就業への経緯を中心に、生い立ち、両親など家族、学校生活を含めて生活史インタビューを行った。調査結果の詳細は、報告書『社会的に不利な立場に置かれたフリーター―その実情と包括的支援を求めて』(2004)と、発刊されたばかりの単行本『排除される若者たち―フリーターと不平等の再生産』(2005)にまとめられている。

 調査から、フリーターが生み出される多元的な要因として浮かび上がってきたのは、これらの若者が学校からも労働市場からも排除されており、重層的な困難を抱える層(生活保護世帯やひとり親世帯のケースもある)における社会的不平等の再生産になっていることである。低学歴(中卒が多い)の親が不安定な職業に従事し(例えばトラックやタクシーの運転手、日雇い労働者、建築作業員など)、低収入であることによって、経済的困難から進学を諦める。あるいは、親の生活の不安定から勉強に向かう環境・条件になく、勉強についていけなかったり教師に怒られて学校が嫌いになったり、学校に居場所を失って不登校・保健室登校状態になり、または高校を中退することで、基礎学力が身につかず低学力に陥りやすい。ここから導かれる低学歴(中卒・高校中退・定時制高校卒・進路多様高卒)が彼・彼女らのフリーター化を促している。ただ、男子にはフリーターのままではいけないという不安があるのに対し、女子では結婚できるかどうかという不安が見られ、経済的な側面からだけでなく、ジェンダーや階層文化的な側面から、単なる貧困問題ではない「社会的排除」として捉えられないだろうかと考えている。

 このような困難な条件のもとで彼・彼女らを何らかの「就労」に結びつける支えとなっているのは、社会関係資本(Social capital)とも言い換えられる信頼によって結ばれたネットワークであり、また地域就労支援コーディネーターの献身的な取り組みである。前者は、養護教諭や進路保障協議会(同和担当)の教師、友人、子どもに目をかけてくれる地域の「おばちゃん」「おっちゃん」などであり、後者の事例は、部落の「保育を守る会」の頃から彼・彼女らを知っており、行政とも連携できている。これらは子どもたちの成長を見守る強いネットワークであり、教育コミュニティ再編の要ともなりうる。

 非常にしんどい事例として特に印象に残った話がある。部落外出身の父と死別し、部落出身の母が再婚した父に暴力や嫌がらせを受けるなど深刻な家庭不和と経済的困難のなかで、中学生時代から生活費のためにアルバイトをし、学校や地域のネットワークに支えられて高校進学・卒業を果たしたが、それだけ頑張っても大学進学を諦めてフリーターとなった20歳の女性のケースである。しかし、地域にネットワークを持っていたからこそ彼・彼女らに調査対象者として出会えたのであり、ネットワークから漏れ落ちている層はさらに深刻な状況に置かれているといえるかもしれない。

(文責:熊谷 愛)