調査研究

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2005.11.16
部会・研究会活動 <成人教育部会>
 
成人教育部会・学習会報告
2005年07月20日
茨木市における地域就労支援事業
若者の事例を中心に

前田明美(茨木市豊川地域就労支援コーディネーター)

地域就労支援コーディネーターについて、茨木市豊川の事例をご自身の経験から前田明美さんにご報告いただいた。以下は、その概要である。

豊川地区は、国際的学術研究・文化交流の拠点と住宅地からなる「彩都」の産・官・学による開発が進む丘陵の南、湿度の高い立地にある。道祖本の支部員世帯だけで400世帯あり、道祖本地区全体では800世帯、うち65歳以上が400人近く、若年層(中学生から30代前半)が400人程度を占める。混住が進み、半分以上は地区外からの流入者である。以前は南側にあるカンツリークラブのキャディーとして働く人も多かった。

2001年に茨木市の地域就労支援モデル事業が始まって豊川地区の中学生の状況が明らかになり、就労体験をどう与えるかが課題に上がってきた。02年度の就労支援事業開始以降も引き続いて、その子どもたちをみている。

「教育を守る会」「保育を守る会」が活発だった頃、道祖本では皆保育のもと保育士に学んで子どもの生活習慣の確立に取り組み、連絡帳の書き方を識字学級「かがやき」の取り組みにつないだ。これらを通じて一保護者として学び、PTA活動や外に向けての啓発活動、地域の相談業務に関わってきた経緯から地域就労支援コーディネーターへの要請を受け、養成講座を受講、現在に至る。

就労困難層の若年者、高齢者、ひとり親等々、どのような関わりが必要かは、地元で実際に人と関わることで見えてくる。「いのち愛ゆめセンター」(=地域就労支援センター)に来てもらうことが第一歩。来てもらえない人に対してはあらゆる情報網を使う。

 2004年度実績では、地区外を含めて中学生から70歳ぐらいまで広く新規のみで60件、のべ400件の相談を受けている。現在は「教育を守る会」に代わって、小学生の保護者とそのOG・OB約50名で構成される「Tタイム」を通じて、子どもたちの情報が上がってくる。地区外の子どもでも、しんどい者同士つるんで遊ぶネットワークを通じて(なかには域外の箕面からも)次々やってくる。地区であれ地区外であれ、中卒後、高校進学もしないNEET予備軍は学年に5、6人いて、青少年センター、学校の進路指導・生活指導の教員とも連携して、就労以前に自律と生活確立をめざす。ネグレクト、虐待、家庭崩壊など子どもの抱える困難はそうストレートには語られないが、ちょっとした言葉の端々からみえてくる。そこには親が子どもに向き合っていないという課題があり、親自身も自分の親と向き合ってこなかった背景がある。

 例えば働いていることにプライドがある父親の場合、フラフラしている子どもを認めたくない気持ちが強く、子どもには近寄りがたい。家出もする子どもたちと24時間つながれるよう携帯電話を持ち、必要に迫られて携帯メールで絵文字を駆使するようになって、子どもたちには、わかってくれ見ていてくれる大人として映っていると感じる。最も身近な大人である親に子どもとしっかり向き合うよう話をし、子どもにも親の姿をしっかり見つめるよう仕向ける。

Aの場合、食事に連れ出したり青年部活動に巻き込んでもらったり様々な働きかけをして、少しずつ話を聞ける関係をつくった。父に「アホ」と呼ばれて名前で呼ばれた経験がなく、母はDVを受けながらも必死に働いてきたという環境で、愛されている実感もなく「僕は要らん子」だと思ってきた彼は、関わりだして1ヵ月ほどかかって支援センターに来た。そこで必要とされていると感じられたことが彼にとっての第一歩。

Bの場合、職業実務科に通うお金がなく、母・祖父に出してくれるよう頼みに行った。働き口が見つかるかどうか通わなければ可能性もないと言うと母が費用を出してくれ、Bは2カ月間皆勤した。委託訓練に通って3年目に、授産施設のパン工房「スワン・ベーカリー」に就職したものの6カ月で辞め、自力で靴販売のチェーン店に就職した。

スワン・ベーカリ−で1年働いているCは高卒後進学せず、アルバイトの見つけ方も知らなかったが、ある程度のコミュニケーションはできた。単車に関わる仕事がしたいと希望、支援センターで漢字ドリルや過去問にも取り組ませたが、職業訓練校は不合格だった。支援センターで働く意味、必要とされる意味を少しずつ理解して同級生とほぼ同時に就職後、辞めたいと言いつつ、褒められたことが自信になり、努力すれば評価されることを理解しはじめた。

地域のコンビニに1ヵ月の就労体験を頼み込んだDの場合、面接前に模擬面接もして採用されたが、週2、3回昼からのシフトなのが本人は気に入らない。短期で「やる気がない」と評価されるのは今の若者にとって厳しい。長い目で気づきを見守ることが必要。職業観・就労観は様々な大人と関わって育まれるし、収入を得て金銭感覚や自信も養われる。

職安に求人を出している事業所にパートやバイトでつないだり、市教委と連携して給食の臨時職員、警備・介護要員につないだりしつつ、地域の事業所開拓が課題である。支援者一人では足りないし、学ぶ余裕もほしい。

(文責:熊谷 愛)