調査研究

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部会・研究会活動 <成人教育部会>
 
自己実現・社会参加への誘導要因
-効果的な成人教育の企画・運営のためのケーススタディ-
おわりに
 本報告書の題名である「自己実現・社会参加への誘導要因」は、大阪市の委託を受けて、2002年度の(社)部落解放・人権研究所成人教育部会の研究プロジェクトとして取り組まれた事業である。ほぼふた月に1回の研究会を開催し、本報告書の原稿執筆者を中心に報告していただいた。各回のテーマと報告者等は以下のとおりである。

 第1回 4月26日「まちづくりと成人教育──教育を通したまちづくり」
     (報告)花立都世司(ともにあゆむ釜ヶ崎識字教室もじろうかい)

 第2回 5月31日「大阪市の女性学級について」
     (報告)柴田昌美(大阪市・男女共同参画課)

 第3回 6月28日「成人学習を考える──学習支援者の役割は何か」
     (報告)森 実(大阪教育大学)

 第4回 9月6日「総持寺地区のまちづくり──福祉でまちづくりの視点から」
     (報告)大北規句雄(部落解放同盟大阪府連合会執行委員)

 第5回 10月25日「滋賀県甲良町のグラウンドワークによるまちづくりの実践と学び─
─現地の担当者のお話などから見えてきたもの」
     (報告)池内正史(関西大学大学院)

 第6回 12月2日「ワークショップに参加して見えてきたこと」
     (報告)笹倉千佳弘(関西大学大学院)

 第7回 2月24日「成人教育の概念と理論」
     (報告)上杉孝實(龍谷大学)

 本報告書は、目次を見ればおわかりのように、本論にあたる第I部の理論研究と第II部の事例研究の2部から構成されている。

 理論研究では、欧米や日本をはじめとする成人教育・社会教育の理論研究の蓄積から、成人教育と成人教育プログラム計画の理論についてまとめられている。そしてさらに、現在、成人教育の学級・講座において「流行」にすらなっている参加型学習と、それを支えているコーディネーターの役割についてまとめられている。後者においては、「目先が変わる」「参加者が増える」といった程度の認識で行われる参加型学習にみられがちな負の効果について、また、参加型による講座の企画・運営にあたるコーディネーターの現場での苦労とその役割の意義について描かれている。

 事例研究では、大阪府豊中市の小学校内に設置された公民分館でのボランティアサークルの活動、京都府亀岡市における連続講座の参加者がコーディネーターになっていくプロセス、大阪市西成区の釜ヶ崎における成人教育活動を通したまちづくり、大阪市内の各地域のボランティアによって企画・運営されている女性学級、滋賀県甲良町における地域住民・専門家・行政との協働による環境を中心としたまちづくりの実践がまとめられている。いずれの事例においても、学習の担い手・参加者による奮闘──実践のなかでの主体の動き──の軌跡が記されている。

 本報告書では、教室の中で行われる講座にとどまらず、参加を通じて地域において人権の基礎を築いていくような「活動」をも広く「学習」として捉え直すことをめざした。それは、人権を自らの血肉とし地域に根づかせるような活動、活動そのものの過程が学習でもあるような学習と実践の有機的な循環を大切にし、人権啓発を通じての意識変革から一歩踏み出すような学習を地域で多様に展開していく必要性があるのではないか、との問題意識からである。

 もとより、本報告書で扱った事例研究については、これら以外に取り上げ紹介すべきものがあったのかもしれない。それらについては他日を期すことにしたい。

 本報告書が、成人を対象とした学級、講座、さらに広範囲の学習活動を企画・運営していこうとする人たちに少しでも役立つことができれば、この研究会に集った私たちにとって望外の喜びである。これでひとまず本研究プロジェクトの区切りをつけて、各方面からのご批評をお待ちしたいと思う。

2003年3月11日
成人教育部会副部会長 赤尾 勝己