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識字部会・学習会報告
2000年7月25日/9月4日

識字能力に関する比較調査の検討
(第1回/第2回)

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 東京高裁による昨年7月の再審請求棄却の決定後、異議審の闘いを進めている狭山裁判闘争弁護団の要請を受け、識字部会では、「石川一雄さんに“脅迫文”は書けなかった」ことを傍証する調査ができないか、検討することにした。

 当時の石川さんの識字能力で“脅迫文”は書けなかったことを論証するための観点はすでに大野鑑定などで出尽くしているが、それに対して、判決は何の反証も示さないまま「(石川さんは)〜できなかったとはいえない」などという単なる憶測に終始している。その論法の前にはどんな論証も無力であるが、私たちは、1.石川さんに“脅迫文”を書く識字能力はなかったこと、2.“脅迫文”は高い識字能力を持つ人物が書いたものであること、の二つの側面を傍証するような材料を集めるという方針を出した。

 具体的な方法として一つには上の1.の観点を論証するため、小学校卒業程度の識字能力を身につけられなかったため識字学級で学んでいる府下の受講生に、“脅迫文”を聞いて書き取っていただく取り組みに協力いただくことにした。

 7/25の識字部会の後に、生江の識字学級で予備調査的に“脅迫文”書き取り調査を行ったところ、識字能力の差によって、書かれた内容に明白な差が出たため、もう少しサンプルを増やせば証拠としての信頼度が高まるのではないかと考えたのである。とくに原文に見られる「不自然な当て字」が受講生の場合にも現れるのかどうか、という点に注目してはどうかと考えた。

 もう一方の2.の観点からは、“脅迫文”そのものの特徴を分析することによって、たとえば誤字のように見える当て字の用い方は、識字能力の高い者による作為であるといったことが明らかにできるのではないか。“脅迫文”の「当て字」の用法は、漢字から「かな」が生まれたという流れからみても不自然で、まずひらがなで文章を書いたのち、同じ単語を拾い出して同じ当て字に置き換えるという面倒な手順を要する。使いこなせる漢字の少ない人は、ひらがなで書くべきところを無理に漢字にするよりも「かな」を用いるので、“脅迫文”は識字能力の高い人物でなければ書けないはずである。

 以上のような仮説を立て、大阪市内・大阪府内の識字学級に呼びかけて、可能な範囲でこの取り組みへの協力を要請している。

 協力するか否かは各学級に一任されているため、何人のサンプルが集まるかは不明であるが、集約されたサンプルは、協力者の年齢・性別・識字歴・学歴等をもとにグループ化し、あらかじめ準備した指標(かなの遣い方、当て字の用い方、誤字の現れ方、句読点の用い方、行末の区切り方、文字の形etc.)に関してそれぞれのグループの傾向をみると同時に、新たな指標を抽出できるかどうか、また“脅迫文”の特徴に照らして共通性があるかどうかを検討する予定である。(熊谷 愛)