今回は、2002年度オープンし活動が始まっている識字・日本語センター(大阪人権センター内)の活動の現状と今後の課題、2003年が初年度となる「国連識字の10年」の意義をテーマに、岡田耕治さん(大阪府教育委員会地域教育振興課)と岩槻知也さん(京都女子大学)のお二人からそれぞれ報告いただいた。以下は、その概要である。
まず「識字・日本語センター」に関する岡田さんの報告から。識字活動の核となる識字センターへの要望は1990年に出され、大阪市の識字推進指針等の識字施策が少しずつ進みつつも、なかなか実現しなかった。今年度ようやく、大阪府、大阪市、大阪府人権協会、識字・日本語連絡会が、それぞれ資金やノウハウ、ネットワークの蓄積を持ち寄る形で、識字・日本語センターとして開設された。
センターの機能としては、(1)啓発資料の提供(各種パンフレットの配布/啓発ビデオ等の配置)、(2)情報提供・発信(識字・日本語センターの周知/ホームページ作成/全教材・資料のデータベース化)、(3)相談活動(相談員の配置〈6月〜〉/学習者・ボランティア〈指導者〉からの相談─着実に増えている相談への的確な対応、最新の情報提供)、(4)開発教材の提供(土方鐵「道標」抄/吉田一子「わたしのおかねなのに」/タラ・セレスタ「ネパールの流れ星」/「インターネットのプラットホーム」/指導資料3点)、(5)調査研究成果の活用(10月〜来年2月にかけての調査員2名による識字学級当調査/識字推進のための基礎資料収集/調査結果をふまえた細やかな情報提供)、(6)交流会の企画など場の提供(識字・日本語センター運営委/よみかきこうりゅうかい/識字・日本語研究集会/識字教材の編集)、(7)ボランティアの登録(識字・日本語〈11・3月〉および日本語〈12月〉の指導者養成講座)、の7つがあり、国内外の識字との交流が進めば、出されていた要望にほぼ応えられる形となる。
また、役割分担については、大阪府・市が(4)と(5)、大阪府人権協会が(1)と(2)と(7)、識字・日本語連絡会が(3)と(6)、となっている。
つぎに、「国連の識字の10年(2003-2012)の起草提案と計画」と題する国連事務総長覚え書きに関する岩槻さんの報告について。今日の非識字地図が社会的、あるいはジェンダー、エスニシティによる不平等と重なり合うという事実から、識字のための闘いは教育のみならず社会的正義や人間の尊厳のための闘いである、と位置づけられている(「貧困撲滅のための国連10年(1997-2006)」とも軌を一にする)。1990年代を通じたEducation for allのもとでも、(特に女性について)期待された成果が上がっておらず、今後10年で、識字率における国際的目標を達成し、非識字者絶対数を減少させる方法・資源を適所に配置すること、新たな政治的意志をもって地域的、国家的、国際的レベルですべての人のための識字(Literacy for all)を開始することが必要であること、そのためには、過去に支配的だった識字に関する狭い見方を乗り越える新たなビジョン─文化的アイデンティティ、民主的参加および市民権、他者に対する寛容と尊敬、社会発展、平和と進歩を促進する新たなビジョンが必要であること、が述べられている。
目標としては、a)貧しく、その声が社会的にも政治的にも聞こえない人々が、社会・経済に参加する必要不可欠な手段としての識字─すべての人のための声(voice for all)、b)すべての人に学習を(learning for all)、c)すべての人に識字を:新たなビジョン(literacy for all: a renewed vision)として、あらゆる機関─政府・国家的組織・地域社会・国際的機関─の新たな関わり、年齢集団の枠を超え、かつすべての人を含むこと、効果的で持続的な識字のレベルの保障、表現・コミュニケーション・生涯学習の手段としての多元的で有意義な識字の使用、d)あらゆる人のための10年(a decade for ALL)、が設定されている。
基本原則としては、a)権利を基礎に、b)アクセス志向、c)貧困解消、d)相互連携、e)高い質、f)学習者中心、g)地域規模、h)識字環境、i)草の根の効果、が挙げられている。