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1日目は、大阪教育大学の森実さんの第5回ユネスコ国際成人教育会議(ハンブルグ、1997・7・14〜18)と人権教育リーダー養成セミナー(ニューヨーク、1997・8・2〜12)の報告から始まった。
ユネスコ国際成人教育会議は、1949年にエルシノアでの第1回会議に始まり、およそ12年ごとに開かれてきた。今回の第5回会議は、(1)90年代以降の諸世界会議で表明された教育への願いを集約し、(2)学習権宣言が採択された85年のパリ会議以後の動きを総合し、(3)21世紀に向かう成人教育の課題を宣言とアジェンダ(綱領)にまとめる、という位置づけにあった。
その特徴として挙げられるのは、(1)国家を前提とした国際化とは異なるグローバリゼーション、(2)NGOの力、(3)金とパワーを持つ人、つまり社会的影響力をもつ人こそ教育されなければならないという「抑圧者の教育学」への力強い第一歩、である。
識字との関連でいえば、たとえばイヌイットの若者の間にはアルコール依存症が広がりつつあるが、伝統的な大工仕事に将来の展望を見出してそこから脱することを援助するオーダーメイドの成人基礎教育プログラムがつくられている。これなどは識字における文字という枠を越え、(1)アイデンティティ、(2)仕事、(3)将来展望を一つの教育プログラムに集約し、生きる力をつけるという課題と直接結びついている。さらに発展させて、「村おこし」につながる成人基礎教育を構想し、アジア・太平洋地域に広げていくことができないだろうか。
セネガルの女性の話で印象に残ったのは、村によっては、学習によって力をつけていった女性を中心に村の憲法がつくられ始めていたり、女性性器切除に疑問を抱きはじめた女性自らがコーランを読み直して、そのようなことが一言も書かれていないことを理解し性器切除を拒否する動きも生まれてきているということである。
国際的には96年以降、識字に含まれる政治色を嫌って識字よりも成人基礎教育という言葉が使われるようになってきている。なお、会議ではパウロ・フレイレの追悼集会がもたれ、新たに識字の10年を始めることが提案された。
また、人権教育リーダー養成セミナーは、(1)講義、(2)フィールドワーク、(3)ワークショップ、(4)参加者同士の交流という内容であった。フィールドワークで訪れたニューヨークのハーレムで開かれている私立学校のプログラムや生徒−教師関係が非常に興味深かった。
たとえば、ストレスにどう対処するかという点に大きな関心を払い、栄養学にもとづいて野菜中心の朝食・昼食を出したり、詰め込みでなく生徒の興味を引き出す授業を行い、教師が生徒一人ひとりを人間として尊重した関係をつくっている。
この報告を通じて森実さんからは、個々人が抱えている生活上の基礎的な問題をもとに、オーダーメイドの教育プログラムをつくるという観点から、識字と成人基礎教育を結びつけるという問題意識が出された。
次に大阪府同和事業促進協議会の下野修さんより、今年度から同和対策としての識字事業は人権教育促進事業という一般対策事業のなかに位置づけられたこと、これにともない、対象者・募集方法、識字センターの設立、解放会館の機能や新しい解放運動の方向性などをめぐる問題提起があった。
両氏の報告にもとづいて、意見交換・討論が行われた。主な論点として、識字事業の一般移行や現在の識字活動のさらなる発展を考えた時、(1)識字と成人基礎教育の関連、(2)部落と部落外での識字の取り組みのネットワーク化、(3)受講生の自主的活動の促進、(4)解放会館のあり方とその位置づけ、(5)こうした課題を検討できる研究所の部会体制のあり方、の5点があり、活発な意見交換が行われた。
夜の交流会では、昨年12月から埼玉県大里郡川本町で始まった識字学級の報告が以下のようにあった。
施設のみで職員のいない同和対策集会所で隔週1回、自作のプリントを教材に、ひらがな・カタカナ・ローマ字を教える識字学級に来ているのは、60代後半から70代の男性が中心で、1回平均で4人ぐらい、のべ15から16人ほどで、継続して参加できている人は少ない。
まだコミュニティが残っていて、識字にもそのようなつながりで来るようなところもあり、全体が60戸100人ほどの規模の部落であることを考えれば、参加率はむしろ高いといえる。部落の人だけでなくフィリピン・ブラジルから来ている外国人にも家庭訪問をして文字を教えているが、部落問題はひそひそ話すようなタブーという雰囲気のなか今は学校にも協力者がおらず、他の識字学級と横のつながりをつくれれば広げていけるのに、という悩みを抱えている。
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翌日は、前日の討論の内容をもとに、今後の部会活動の方向性が話し合われた。
それと関連する課題として大阪府の識字学習者調査の現状について簡単な報告が大阪府教育委員会の田中正さんからあり、読み書き能力がその人の生活や人生にどのような影響を及ぼしているか、潜在的学習者がどれほどいるか、さらには住民調査につなげられないか、調査項目が適当か、授業形態や学習内容が適当かといった視点が、それぞれから出された。
さまざまな意見が出され、成人基礎教育や解放会館のあり方に関する基礎的な学習、大阪府識字学習者調査の分析、識字関連ビデオの目録作成を当面の課題として活動していくというおおまかな方向性が出された。