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1日目は、大阪教育大学の森実さんの第5回ユネスコ国際成人教育会議(ハンブルグ,7/14〜18)と人権教育リーダー養成セミナー(ニューヨーク,8/2〜12)の報告で始まった。
ユネスコ会議では、たとえばイヌイットの若者の間でアルコール依存症が広がりつつあるが、伝統的大工仕事に将来の展望を見出しそこから脱することを援助するオーダーメイドの成人基礎教育プログラムが報告された。これなどは識字における文字という枠を越え、(1)アイデンティティ、(2)仕事、(3)将来展望を1つの教育プログラムに集約し、生きる力をつけるという課題と直接結びついている。さらに発展させて、「村おこし」につながる成人基礎教育を構想し、アジア・太平洋地域の広げられないだろうか。
セネガルの例では、村によって、学習することで力をつけていった女性を中心に村の憲法がつくられはじめたり、女性性器切除に疑問を抱きはじめた女性自らがコーランを読み直し、性器切除を拒否する動きも生まれてきているという。
国際的には96年以降、識字に含まれる政治色を嫌って、識字よりも成人基礎教育という言葉が使われるようになってきている。
ニューヨークでのセミナーでは、フィールドワークで訪れたハーレムで開かれている私立学校のプログラムや生徒−教師関係が非常に興味深かった。たとえば、ストレスへの対処に大きな関心を払い、栄養学にもとづく野菜中心の朝食・昼食を出したり、詰め込みでなく生徒の興味を引き出す授業を行い、教師が生徒一人ひとりを人間として尊重した関係をつくっている。
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この報告を通じて森実さんからは、個々人が抱えている生活上の基礎的な問題をもとにオーダーメイドの教育プログラムをつくるという観点で、識字と成人基礎教育を結びつけるという問題意識、教育を学校教育と学校外教育、あるいは生涯教育を学校教育と社会教育とに分けて、部会の枠組みを大きく組み替えるべきではないかという見解が提出された。
次に大阪府同和事業促進協議会の下野修さんから、同和対策としての識字事業から97年度に一般対策になり、部落の識字が人権教育促進事業という一般対策事業のなかに位置づけられたのに関わって、対象者・募集方法、識字センターの設立、解放会館の機能や新しい解放運動の方向性などをめぐって問題提起があった。
両氏の報告をもとに、(1)解放運動の原点としての識字、(2)一般対策への移行、(3)成人教育、といった側面からの森実さんの質問に、まず部落解放同盟大阪府連の田村賢一さんが答えるかたちで、討論が始まった。
田村さんからの「これまで大阪の部落の識字に対し、大阪府連としてマクロな視点を十分もちえず、解放会館と府連の関係でも教育対策と生活対策の中間的な、やや曖昧な位置づけだった。多様化してきた部落の要求に応え、参加者層がもっと多様になるべきだし、これからの解放会館は生涯教育と福祉とをあわせもった施設になるべき。一般対策になることで様々な可能性が開けると考え、部落外にもネットワークを広げていけないか」との見解が示されると、他の参加者からも次々活発な意見が出された。
夜の交流会では、昨年12月から埼玉県大里郡川本町で、部落問題はひそひそ話すようなタブーという雰囲気のなか、支部にも呼びかけてもらい一人で識字学級を始めた森政彦さんの報告があった。
翌日は、まず大阪府の識字学習者調査の現状について簡単な報告が大阪府教育委員会の田中正さんからあった。前日の討論の内容をもとに、今後の部会活動の方向性が話し合われ、成人基礎教育や解放会館のあり方に関する基礎的な学習、大阪府識字学習者調査の分析、識字関連ビデオの目録作成を当面の課題として活動していく、というおおまかな方向性が出された。