識字部会の「ネットワーク・プロジェクト」に関連して、アメリカなど識字ネットワークの1つとして明確に位置づけられている図書館などと比較して、日本の図書館について考える機会になった。阿倍野図書館員の和田さんの報告は以下のとおり。
日本語の本しかなく、日本語学習教材もほとんどないため、外国人利用者のニーズにほとんど応えられなかったことから、多文化サービス=多文化社会における図書館サービスに関心を持つようになった。
国際図書館連盟のまとめた多文化サービスのガイドラインは「図書館サービスは、社会のすべての民族的・言語的・文化的グループに対し、公平にそして差別することなく提供されるべきである」とし、マイノリティに欠かせない資料として、(1)マイノリティの望む言語で書かれた資料、(2)異文化の相互理解に役立つ資料、(3)文字になじめない人のための音声や映像資料、を挙げている。
また日本の図書館法は、「住所を有していれば」外国人もサービスの対象となる住民とみなしている。
大阪市も外国籍住民の人権尊重、多文化共生社会の実現を掲げ、(1)内外人平等の原則を踏まえた行政サービスの充実、(2)教育、(3)相互理解の促進、地域社会への参加、の施策を進め、1988年生野図書館に「韓国・朝鮮図書コーナー」、1996年には外国人および外国文化・言語を学習する日本人への資料提供を目的に、日常生活に必要な知識や楽しみのための資料に重点をおき中央図書館に「外国資料コーナー」を開設した。
中央図書館からの資料取り寄せが可能になり、外国人住民向けに日本語学習教材、料理・育児書、小説・雑誌などを取り寄せたコーナーをつくって、貸し出しを行っているほか、日本語教室などに外部向けのPRもしている(旭区・北区など)。阿倍野では、市長室国際交流課から譲り受けた中国語新聞、予約取り寄せの外国語資料などを提供している。
日本語・アルファベットによる資料検索しかできなかったのが、中国語図書への要求の高まりに応じて、各館用に中国語の目録が作成された。
資料の取り寄せ、貸し出しによって外国人住民の潜在的なニーズが明らかになることで、新たな利用にも結びついてきたが、予算増額・職員増員の見込みのない状況で、いかにしてサービスを継続していけるかという問題を抱えてもいる。利用者からの切実な要求がなければ、なかなかサービスが実現しない。
以前、平仮名しか読めないという利用者から「字の読めない人は図書館に来たらあかんのか」と言われたことがあり、建物の構造からくるバリアだけでなく、文字文化そのものが図書館利用を困難にする側面にも気づかされた。図書館としてはなるべくルビつきの図書を購入するとか、利用者向けの文書はルビつきにしたりはしているが、多文化のなかに口承文化や手話文化も含めて、さらに幅広い活動ができないものかと思う。