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識字部会・学習会報告
1999年7月28日
大阪市地域日本語教育事業の考え方と概要

(報告)西口光一(大阪大学留学生センター)
冨岡恭子(大阪市教育委員会社会教育課)

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 大阪市が文化庁の委託を受け1997年度に開始、今年度で最終年を迎える「大阪市地域日本語教育事業」の全体像と、地域日本語教育の考え方について以下の報告をいただいた。

 まず冨岡さんからは、(1)国際化にともなって地域の特性に応じた多文化共生のための日本語教育を進めるとの趣旨で、他の6市1町とともに大阪市が、外国人人口の多さ、識字学級・夜間中学における1960年代以降の識字の実践などを背景に、モデル地域に指定された経緯、(2)阿倍野日本語読み書き教室のモデル事業を含め広域施設での日本語教育を対象とする社会教育施設専門部会、池島小学校・瓜破東小学校の生涯学習ルームにおけるモデル事業を中心に、中国帰国者の多い地域での日本語教育を対象とする生涯学習ルーム専門部会、同和地区の識字学級での日本語教育のあり方を対象とする解放会館専門部会の活動状況、(3)今年度の識字・日本語指導者養成研究事業計画案などについて、報告を受けた。

 次に西口さんから、(1)日本語教師、日本語ボランティアとは?、(2)地域日本語教育とは?、(3)地域日本語教育は何をめざす場か?、(4)めざす方向が阻まれているのはなぜか?、といった枠組みでお話しいただいた。

 (1)1980年頃まで文法構造を系統的に教えていた日本語教育が、留学生の急増、市場の拡大によるイノベーションで、当事者のニーズに合った日本語教育に変わるとともに、85〜90年頃はボランティアの立場で教えるボランティア日本語教師が主流だったのが、95年以降、日本語という領域でボランティアに関わる「日本語ボランティア」に重心が移ってきた。

 90年代に留学生が減少しても資格外労働者などの地域における日本語学習への需要は大きく、在日外国人支援運動の一拠点でもあった私設の日本語学級が受け入れてきた。

 (2)90年代初の日本語ボランティア養成講座・研修では、外国人のための日本語学習支援と、日本人のための社会啓発的相互学習的交流という2つの矛盾した要素が共存していた。

 (3)多文化共生で共に暮らしていく市民・住民を育てる相互学習の場であり、外国人の日本語能力育成の場。

 (4)日本語教育養成講座や大学の同様のコースには、教育原理・教育哲学の課程も社会教育の要素もないし、相互学習の社会的な関係のなかで日本語能力が伸びるという視点がない。

日本語教育研究の世界は、国費留学生の6カ月の専門日本語教育、非漢字圏の人々のための日本語教育に目が向いているし、地域日本語という新しい考え方にノウハウの蓄積がないのも難しいところである。

 だからこそ文化庁が日本語教育関係者を巻き込んで地域日本語教育事業を行う意味がある。ボランティアで日本語を教えるが交流はしない人、学習者のパートナーとして寄り添う姿勢なしに日本語ボランティアとして教えたがる人も含め、学級全体をコーディネートする日本語教育コーディネーターの必要性を、文化庁が最近言いはじめている。

(熊谷 愛)