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2004.05.31
部会・研究会活動 <識字部会>
 
識字部会・学習会報告
2004年03月31日
識字・日本語連絡会
『国連識字の10年私たちの行動計画(素案)』について

湊川友宣(識字・日本語連絡会)

 文字の読み書きにとどまらず、社会生活を営む基礎的な力、進歩する社会に自ら参加する知識や技能、さらには社会を批判的に認識し変革していく力を身につけることを「識字」として捉え、「国連識字の10年(2003-2012年)」に基本的人権としての識字を実現するために、識字・日本語連絡会が検討中の行動計画について、事務局の湊川友宣さんに報告いただいた。その概要を以下に紹介する。

 行動計画案は、第二言語としての日本語学習、社会参加のための力の習得をも含んだ識字・日本語の充実について、大きく9つの「行動計画の柱」に分けて、それぞれの柱ごとに「具体的な行動」を提起している。

 まず、「識字」は基本的人権であるにもかかわらず、その保障の仕組みがないことが最大の課題であると考え、国をはじめ地方自治体に対してこの仕組み(政策)づくりを求めるために、「1.政策(法・計画)の充実」をおき、識字施策推進指針の制定や行政・市民による点検制度の制度化を含む「行動計画づくり」と、「国に対する政策提言」として、法律の制定、国の政策研究と実施のための機関の設置、就学免除者・猶予者への学習機会の保障、全行政職員への識字問題の研修などを求めている。

 次に、多様な文化的背景を持つ子どもたちへの教育保障を含め、識字学習を必要とする多くの成人が学習を諦めざるを得ない現状を解決し、一人ひとりに合った学習の場や学習内容を選べるよう、行政機関だけでなく企業や市民団体と協力した取り組みをめざす「2.識字施策の充実」として、全市町村での教室開設、図書館の活用、夜間中学校の増設、服役囚や野宿者のための識字など、多様な形の「教室増設」と、学齢期の子どもへの日本語教育の充実、第一言語習得へのサポートなど「子どもの教育保障」のほか、学習希望者の要望を反映した「多元化する学びへの対応」を求めている。

 さらに、成人が生活しながら学ぶための教材の開発やその学習を支える専門家の育成が、国の責任において保障され、学習を支える市民の活動がさらに活発になるよう、国・地方自治体そして地域社会全体で「3.識字推進力の育成」に取り組むとし、「学習目的」「生活環境」「地域性」などに合った「教材の開発」、生活日本語教育の専門家、識字・日本語ボランティアや学習コーディネーターなど「識字学習を支える人材の育成」、「相談機能の充実」などを挙げている。

 日本社会における非識字問題への認識の希薄さが非識字者を苦しめていることに対し、日本語の文字や言葉が使えなくともすでに持っている力で不自由なく暮らせると同時に、社会に参加するための力を新たに身につけることのできる状態を、行政機関だけでなく市民団体や企業の連携を通じてめざすことを、「4.啓発(識字文化の創造)」と捉え、「非識字者の視点に立った社会づくり」として、表示の多言語化と図式化、ルビの徹底、点字や音声サービスの充実、代読・代書の普及などとともに、「啓発活動の充実」を提案している。

 「10年」の取り組みを実りあるものにするために、「5.研究と監視・評価」、すなわち、全国識字実態調査、障害者の学習要求調査、就学免除・猶予者の実態調査、多言語情報の取り組み現状の調査など、まず「行政機関の責任による実態把握」を行い、その実態の改善のために「大学の責任におる研究」と学習現場の活動を充実させることを求めている。

 1990年の国際識字年以降、世界中の団体や個人によって蓄積されてきた識字活動を、積極的に交流し、さらに幅広く連携を進めていく「6.パートナーシップ(ネットワーク)の充実」について「世界への発信」「国内ネットワークの充実」を行うとともに、社会的影響力の強い法曹界、医師会、教育者養成機関との連携を提案している。

 また、日々の地道な取り組みのみならず、定期的な成果確認と大々的な発信の機会を重視して、「7.イベント(記念行事)の充実」をおいている。

 市民の税金や市民の手弁当が頼みで、財源の面から拡充の難しい識字活動に対し、例えば補助金・基金の充実、自主識字学級や民間日本語教室への運営費(特に会場費)の援助、コーディネーターやスタッフなどの研修への財政的援助といった形で、行政責任を求めると同時に、人材確保や企業の社会的貢献の面から、企業や財団などに対しても資金援助や資源提供を求め、資金や資源を活かす仕組みづくりをめざそうと、「8.資源・資金の充実」を提起している。

 最後に、「10年」の取り組みのなかでも大きな意味をもつものとして、2002年4月に大阪府、大阪市、(財)大阪府人権協会、(社)大阪市人権協会、識字・日本語連絡会の共同運営で設立された「9.識字・日本語センターの充実」を挙げている。識字活動を応援する情報の集積と発信、相談活動、世界の識字活動との連携の窓口などに、大きな期待が寄せられており、人員、施設、機能の充実をめざすとしている。

(熊谷愛)