今回はミクロレベルの課題として識字・日本語学習コーディネーター研修の課題について副部会長の森実さんから問題提起をいただいた。
報告では、はじめに、識字・日本語学習に関わる支援者のなかでコーディネーターがどういう位置を占めているのか、様々な成人学習理論一般における支援者の分類を参照しつつ整理された。参考にした枠組みとして、海後宗臣の「教育の三類型」、マルカム・ノールズによる「成人教育者」の分類、、企業内教育の研究に携わる教育技法研究会による「教育担当者」の整理などがある。
とくに参考になるのは、パトリシア・クラントンの提起する「教育者の役割」である。彼女は、教育者の役割を細かく分け、科目の専門家、学習・授業の計画者、教授者、ファシリテーター、情報提供者、学習管理者、モデル、メンター、共同学習者、改革者、省察的実践者、研究者としている。
これらを参照して報告者がつくった学習支援者の一般的な仮説的枠組みが、企画立案者(プロデューサー)、連携促進者(コーディネーター)、事務局(実務スタッフ)、進行役(ファシリテーターなど)、情報提供者(リソースパーソン)である。
そのような一般論に対して、識字・日本語コーディネーター経験者から、コーディネーターに求められる役割としてこれまでさまざまな機会に出されてきたのは、人間関係調整や雰囲気づくり(お世話役)、物的・人的・財政的基盤の整備(管理者)、パートナー(または講師)の相談役(チューター)などである。
コーディネーターが育つ場には徒弟制、集団形成(OJT)、集合研修(セミナーなど)がある。それぞれにポイントが整理されるべきだが、ここでは、集合研修に焦点を当てる。数年前に初めてコーディネーター集合研修を企画したときに、いくつかの研修タイプをあげた。それぞれに説明しよう。
- 「ワークショップを中心にした研修案」では失敗も含めた3学級ほどの取り組みの紹介から始めて、小グループに分かれて感想と互いの教室の紹介をした後、全体討議をして課題を共有し、ブレーンストーミングで課題を整理して、小グループごとに課題解決法をまとめ、グループ発表とまとめの全体討議を行う。
- 「レクチャーを中心にした研修案」では、コーディネーターの役割と心構え、ボランティア参加者と学習参加者のニーズ、運営活動に必要なこと、運営担当者としての教室活動(まとめ)について講義を行い、学習者同士が意見交換をして学ぶ。
- 「リソースパーソンのコメントを中心にしたワークショップ研修案」はリソースパーソンからのコメントを最初に置き、アイスウォーミング→エピソードで対話→課題を出し合う話し合い→課題の整理→課題解決のためのブレーンストーミング・話し合い→グループ発表→まとめとふりかえり、といった流れである。
- 「『コーディネーターの悪夢』から出発する問題解決ワークショップ研修案」では、コーディネーターの役割に関する講演を最初に行い、質問・感想の交流の後、コーディネーターとして経験した失敗を出し合い、先輩コーディネーターの報告を挟んで、二度にわたる問題解決のためのグループでの話し合いをし、グループ発表の後、まとめとふりかえりをする。
いくつかのスタイルの研修に共通するのは、参加者の経験や知恵に依拠して進むことである。参加者から出される課題意識やそれを解決する知恵が重要な位置を占めてきた。研修でのコーディネーター同士の交流は有意義で、自分たちで解決策を考える研修では達成感もあり、互いのつながりが生まれているのは成果である。
これまでの研修で出された、コーディネーターが解決すべき課題としては、A学習者とボランティアの組み合わせ・人間関係、B教室の人間関係、C学習者とのコミュニケーション、D来てほしい人に来てもらえない、E「開かれた」教室運営、F日本語が全くできない人への対応、G教室外の人・組織との連携、H学びたい中身に対応できない、Iイベントに人が集まらないなどがある。共通の課題が明らかになってきたなかで、次のステップが求められている。
たとえば、A-Iのような共通課題が明らかなっているにもかかわらず研修主催者側から提供できる中身が限られているため、同じ課題が毎回出され参加者から出る結論も同じというマンネリ化も生まれるということである。一方、研修参加者にコーディネーター未経験者が増え、参加者同士で答えを見つけていく研修のあり方には限界もみえてきつつある。また、講義とワークショップをより有機的につなげる必要もある。
報告後の話し合いのなかでは、A-Iの課題を追求し、新しい研修を創るプロジェクトが必要ではないかという意見が出た。また、基本的な名称の問題として、コーディネーターと呼ぶと個人が運営調整するイメージになってしまうので、今後はもっと幅広く、運営委員の研修、もしくは運営に関する研修と呼ぶべきではないか。各地で進むコーディネーター養成・研修の経験交流に意識的に取り組んでいくべきではないかといった意見が出された。
(熊谷愛)