調査研究

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2004.10.14
部会・研究会活動 <識字部会>
 
識字部会・学習会報告
2004年09月08日
『釜ヶ崎識字教室もじろうかい』2年半のあゆみ

花立都世司(ともにあゆむ釜ヶ崎識字教室もじろうかい)

  大阪の寄せ場でありドヤ街である釜ヶ崎で2年半前に識字教室を開設した花立都世司さんに、その歩みを報告いただいた。以下、発表で半分ほどを占めていた釜ヶ崎の現状と課題については省略し、概要を簡単に紹介する。

  大阪市の社会教育主事として採用され、最初に配属された西成解放会館(当時)で識字を担当したこともあり、釜ヶ崎に識字教室をつくりたいと思うようになった。しかし、なかなか釜ヶ崎に関われず、2000年夏に友人の水野阿修羅さんの紹介で、釜ヶ崎で野宿生活から居宅保護を勝ち取った人々による当事者組織「つきみそうの会」で仲間づくりのワークショップを担当して、ようやく釜ヶ崎に関わるきっかけができた。

  まずボランティア養成講座を実施、その修了生と一緒に識字教室を開くという計画で、2002年11月に識字のボランティア養成講座を実施した。10万円ほどの講座収益を教室開設費用にあてることもできた。講座を準備するなか「旅路の里」司祭の英隆一朗さんというすばらしい協力者と出会い、英さんとボランティア養成講座の修了生とともに2002年3月に「釜ヶ崎識字教室もじろうかい」を開設することができた。

  会場は太子福祉館という100‡uもある会議室で、簡易宿泊所やホテルを経営するオーナーから無料提供を受けている。活動時間は毎週土曜日午後1時半-4時、前半1時間半は一対一や小グループでの学習や話し合い、お茶休憩を挟んで後半は全体活動(話題を決めての話し合い等)。全体活動では、介護保険等の福祉施策を活用するための学習や医師を招いた医療との付合い方の学習、生活や生い立ちを振り返るアクティビティ等を行い、終了後、4時半まで振り返りをする。また、年に3回ほどピクニックに行き、年末年始や季節ごとの食事会を行っている。

  1回100円の参加費(お茶・お菓子・教材代)は野宿生活者や払えない人は無料で、助成金等は受けていないが、会場費を無料にしてもらえたため、参加費と寄付金で何とかやりくりできている。

  「つきみそうの会」が男姓だけの会だったこともあり、「もじろうかい」も男姓だけのハードなものを想定していたが、毎回7-10人参加しているボランティアのほとんどは女性で、とてもやさしい暖かな雰囲気の教室になった。

  学習者は毎回10-15人、土曜日の午後ということもあってか現役の労働者はごく少数で、高齢で在宅(多くは3畳一間の簡易宿泊所をアパート転用した福祉マンションやアパート住まい)での生活保護を受ける単身の元野宿生活者、ついで救護・更生施設から通う人が多い。「もじろうかい」で受け入れできそうな状況を見計らってボランティアが声をかけ、野宿生活者もほぼ常に1人か2人参加している。国籍は日本の他に韓国、フィリピン、アフガニスタン、ベトナムで、これまで参加してくれた女性は6名、現在は2名。

  「もじろうかい」では、学習したいと参加してきても学習どころの状況でなく、学習の前に生活相談になる場合が少なからずある。例えば、Kさんはお金が底をついてあと2週間で1日500円のドヤを出て野宿せざるをえないのに、3000円弱の有り金から100円を払ってでも勉強したいと一人でチラシを見て来た。Kさんは救護施設につなぐことができ、現在もそこから教室に通っている。Mさんも自立支援センターをお酒の問題で途中退所、明日にも野宿という状態でチラシを見て参加した。アルコール依存症からの回復プログラムがある救護施設に何とかつなげ、施設から通って1年後に退所、今はアパートに暮らしている。

  このように、なけなしの100円を払ってでも自分から学習しようと来る人は、ある意味で自分を変えたいと思っており、支援しやすい時期にあると思う。そのような利点を活かして、これからも小さいながらもセーフティネット的な役割を果たしていければと思う。

  識字教室らしい出来事としては、在日韓国人Hさんのカミングアウトがある。また、長年音信不通だった家族に手紙を出し、付き合いが再開した人もいる。

  「もじろうかい」参加者のつながりが深まった出来事がある。末期のガンが見つかり47歳の若さで亡くなったKさんと、残された3カ月間に色んなところに行き、病院に見舞い、臨終に立会い通夜と葬儀もみんなで行ったことである。単身高齢者が多い学習者にとってどのように死を迎えるかは重大関心事で、Kさんのような葬儀をしてほしいと何人かから聞いた。「もじろうかい」が学習者の信頼をえているとすれば、生活相談にのり福祉施策や就労につなげていることや、Kさんをみんなで看取ったことが大きいと思う。

  開設してわかったのは、識字教室を必要としている人が大勢いること。今後は、釜ヶ崎にある生涯学習ルームや自立支援センター等に社会教育主事をおき、識字や成人教育事業を展開していくことが必要でないかと思う。当初、野宿問題等に当事者の立場から関わるリーダーの養成も考えていたが、失業、ギャンブル依存や借金、アルコール依存等どれ一つとして、週一回の識字活動では解決できない厳しい現実があればなおさら、成果を急がず、立ち止まったり一緒に悩んだり、一人一人との出会いを深める丁寧な関わりの大切さを改めて感じている。

(熊谷愛)