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2005.02.14
部会・研究会活動 <識字部会>
 
識字部会・学習会報告
2004年11月19日
府内義務教育における外国籍の子どもに対する日本語・母語保障の取り組みとそこから見えてくる課題

安野 勝美(大阪府在日外国人教育研究協議会事務局)

 大阪府在日外国人教育研究協議会(府外教)事務局の安野勝美さんに、アメリカでの生活経験、ニューヨーク・ハーレムにおける入居差別体験、「かいづか国際交流協会日本語サロン」や日根野中学校におけるブラジル・ペルーの生徒への日本語指導等の関わりから、大阪府内の義務教育における日本語・母語保障の取り組みの現状について、報告いただいた。以下はその概略である。

 2005年頃から人口減少に転じると言われる日本で外国人が増えつつある。大阪府には、例えば1校に1人の外国人生徒という学校から、外国にルーツをもち日本語に不自由している子どもが全校児童・生徒数の1/4-1/5在籍するという学校まである。

 日本語指導に関しては、例えば大阪市内の場合、小・中学校それぞれ4つのセンター校方式で日本語指導が行われ、また、小学校1-3年までは教師が派遣される。しかし、他の市町村では千差万別で、日本語担当教員が加配される学校ばかりではなく、授業をもたない教頭等が担当する、放課後に担任が指導する、ボランティアが運営している教室に連れていく、教員以外のボランティアが担当する等、といった現状である。また、日本語指導は教育委員会・学校・教員の仕事なのに通訳に丸投げしている場合も多いし、特別な対応のないことを親が了解した上で入学を認めるとか、他県では入学すら認めない例もある。

 それでも、子どもは学校で日本語に囲まれて生活するうちに日本語が上達し、それに反比例するかのように子どもは母語を忘れる。一方、親は日本語ができないままの場合も多く、親子間で意思疎通が難しくなる。このような母語の急速な喪失に関して、Fishmanは、「母語」学校、メディア、宗教施設、市場などの「民族語保持要因」が失われている場合に見られるとしている(日本でそういう要因が残っているのは大阪の生野ぐらいであろう)。そういう現実に日本語教師が疑問を抱き、外国にルーツをもつ子どもの母語・母文化の保障という視点が生まれてきた。大阪在住のベトナム人の約40%が集まると言われる八尾市S小学校で通訳がついている時間中に母語の指導を始めた。公式な母語保障の制度ではないが、この試みが始まって母語を学ぶなかで自己のアイデンティティに自信をもった子どもたちは、母語に対する学習も含む学習意欲が高まったことが報告されている。

 そもそも日本で暮らす外国人の子どもにとっての母語保障・母語教育の必要性は、家庭内での円滑なコミュニケーションのためだけではなく、「小学校4年まで母語の教育を受けないと、第二言語の学習言語を母語話者と競争できるまでに習得できない」(Thomas & Collier)、すなわち10歳頃までに母語で読み書きができる程度の力を習得しなければ、外国語ひいては外国語で学ぶ全ての学科の学習に支障をきたす、という研究成果が根拠となっている。

 府外教が2003年度行った小中学生対象の日本語テストでは、親との日本語でのコミュニケーションや親の日本語力の程度と成績との間に大きな相関はないことを明らかにしている。成績と正の相関があったのは、日本滞在が長いこと、学年が高いこと、女子であることである。例外的に父親の日本語力の高さとは相関があったが、日本語力そのものというより、父の学習意欲が高いということではないかと解釈している。現在、小学生以下の外国にルーツをもつ子どもたちの過半数は日本生まれと思われるが、日本で生まれても、親が日本の学校を出ても、一代ぐらいで子どもの日本語力が十分に高まるわけではない。また母語について、移民の場合、一般には三代ぐらいまで母語が残るといわれるのに、日本で育つ子どもはきょうだい間でも差があるぐらい母語を失うのが早い。父親が日本人で母親が外国人の場合、子どもに日本語しか使わせない、といった問題もある。

 進んだ国では、母語として同じ外国語を話す子どもが3人いると母語の教師をつける。それに比べて大阪の取り組みの現状は、とても母語保障などとはいえない。取り組み始めたところでも「母語で書く」ことに力を入れているとはいえ、せいぜい母語と「出会わせる」程度のことしかできていない。

 文科省は「母語を用いた帰国・外国人児童生徒支援に関する調査研究」を今年度から実施していて、大阪府内では門真・八尾・堺・東大阪・高槻の各市が対象になっている。中国帰国者センターがある高知市は小学校3年生から中国語をカリキュラムに位置づける教育特区事業を進めている。

 外国籍の子どもにとって小中学校教育は義務教育でない。まずは学校が、外国人の子どもを受け入れようとしているのか、排除しようとしているのか、それが、学校の「多文化」化にとって最大の鍵である。

(熊谷 愛)