調査研究

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2005.03.08
部会・研究会活動 <識字部会>
 
識字部会・学習会報告
2005年1月14日
日本語教育と日本語習得支援
-海外からの移住者の日本語習得をめぐって

永井慧子(〈ことばの会〉もりのみや)

 日本に定住する外国人は「制度の壁」「言葉の壁」「こころの壁」に囲まれて生活している。「ことばの壁」に関して、かつては日本人との間の壁が最大の問題だったが、現在、家庭内における親子間の壁も大きな問題と認識されている。日本は、ことばや文字がわかる者にとっては暮らしやすく、わからない者には暮らしにくい社会である。外国から来た人が全て日本語や日本の文字を学ぶべきという発想は間違っているが、出身国の異なる外国人定住者同士の共通語としても日本語の重要性が増しており、学びたい人に対して環境を整えることは日本社会の義務といえる。

 次に、外国人の日本語教育と日本語習得支援の違いについてである。国内における成人外国人の日本語習得のためには、<1>日本語教育として、留学生教育(大学や日本語学校で学んでいる者)、企業等で働いている者への教育、研修生教育(日本国内のみならず海外でも実施)、中国帰国者教育(中国帰国者定着促進センターなど全国のセンターで実施)、インドシナ難民教育(全国に1カ所あるサポート施設で実施)、一般定住者への生活日本語教育(大阪でも、公的なものは、難波市民学習センターで2時間×週2回×20回、年2回コースとして、YWCAに委託して実施されている「基礎レベルの日本語教室」のみ)という各種内容のものがある。<2>日本語学習支援としては、日本語教室、識字教室、夜間中学がある。教師と学習者がいて教師がカリキュラムを持っている<1><2>に対し、<3>日本語習得支援には、日本語教室識字教室、家族・友人・隣人・同僚などが考えられ、専門知識がなくとも日本語が話せる人なら誰でも関われるが、支援者には日本語を習得しようとする人と共に学びあう姿勢が求められる。

 年一回、4級から1級まである日本語能力検定試験が世界各地で行われている。1級は日本語を900時間程度学習したレベルとされ、合格ラインは正答率70%であるが、漢字圏の出身者でも少々難しい内容である。2級は日本語を600時間程度学習したレベル、60%が合格ラインであるが、非漢字圏出身者にとっては難しい。

 一般の外国人定住者に対して生活日本語教育が公的に保障されなければならないのに、現在の日本語教育は、日本語検定1・2級レベルの日本語習得をめざす留学生・就学生と、研修生、中国帰国者などを対象としたカリキュラムはあっても、定住者への体系的なものはない。その教育を担う日本語教師の養成カリキュラムでも、日本語の言語学的側面が重要視されてきた。ただ、改訂された「日本語教員養成において必要とされる教育内容」では、従来あまり見られなかった「異文化理解」「異文化コミュニケーション」「異文化間教育」「コミュニケーション能力」等の観点が加わり、今年度からは日本語教育能力検定試験の内容も変わっていることから、日本語教師も変化しつつあるのかもしれない。とはいえ、定住者に対する生活日本語教育の予算やシステムがないのはもちろん、生活言語としての日本語やその教育内容に関する研究、その実践や教材開発の蓄積がほとんどなく、生活に必要な日本語を体系化されたカリキュラムのもとで教える専門家の育成もなされていないのが現状である。

 日本語習得支援では、日本語がわからない外国人学習者と日本語しかできない支援者の間で、何とか相手に伝えようと互いに努力してコミュニケーションを成立させ、学習者側にある学習ニーズを見いだしていく。それには、教師として一方的に教えようとする姿勢は問題になる場合が多い。定住者への日本語教育と、日本語習得支援は車の両輪のようにどちらも必要なのに、現在は前者はほとんど実施されておらず、後者を無償のボランティアのみが支えているのが問題である。

 外国人の日本語教育と日本語を母語とする人の識字教育は、成人として社会参加に要する日本語の理解と読み書き、日本社会で必要な一般的知識の理解を目的とする点で共通する。識字では文字を「書く」作業に加え、語彙・表現、作文の能力の習得で漢語を多く用いる文章語が壁になる。日本語教育では話しことばの習得が第一である。文化理解に関しては媒介語としての母語の使用が有効だが、母語でも非識字状態にあった人には識字の視点も必要となる。

 また、多言語による表示や情報伝達も必要であるし、大阪市営地下鉄の数字による駅表示のようなわかりやすい表示や、わかりやすい日本語での伝達は日本人にとっても必要である。(熊谷愛)