「堺識字・多文化共生学級『つどい』」は2002年度に識字学級を発展させた形で始められた。読み書きなどの学習を通じて学習者同士が互いに知り合い、自己実現の力をつけていく場として、毎週火・金にそれぞれ昼と夜の計4回、「堺市立人権ふれあいセンター」で開いている。
その原点は1970年に始まった部落の識字学級である。70年代には60〜70名が在籍し、坂本ニシ子さんの「動員だっせ」に書かれているような運動の中心にあって、主に夜間に開かれた学級は活気があった。
1990年代になると、学習者の高齢化とともに参加人数が減少したため、人権の見地から対象を堺市内全域の読み書きに困っている人に広げ、「堺識字・多文化共生学級『つどい』」として再出発した。
現在は62名の在籍者のうち、35名が日本人(うち同和地区内24名)、残る27名の内訳は、中国人、フィリピン人、インドネシア人、ベトナム人、マレーシア人、韓国人である。かつて識字学級講師には地元小中学校の教員や保育所の保育士が来ていたが、現在は小中学校の現役または退職教員11名に加え、昨年度(2005年度)からは一般募集による有償ボランティア講師15名も関わっている。学習方法としては、個々の学習者の希望に合わせた教材を用いて、原則的に識字では一対一学習、日本語学習ではグループ学習の形態をとっている。
識字と日本語
「つどい」の目的はあくまで識字にある。そのため、多文化共生の理念で日本人と外国人がとも学習することは無理なのではないかと悩んだ時期もあった。
しかしながら、「日本社会で生きてきて読み書きだけができない識字学習者と、文化や生活習慣も違い言葉もわからない日本語学習者とでは学びたいことが違うが、地域の識字だからできることは、外国人の日本での生活と生活のための日本語を支援することであり、そのことを通じて誰かの力になれることは識字学習者にとっても支えになるのではないか」との、「ことばの会もりのみや」の永井慧子さんの話を伺って、「つどい」の方向性に確信をもてるようになった。
「つどい」の課題と今後の方向
現在、学級運営上の問題としてまずあるのは、日本語学習を除く識字において、最も若くて65歳、最高齢は93歳で平均は70歳、という高齢化である。70代には病気がちだったり、しんどかったりする人が多いのは、結婚差別やこれまでのしんどい暮らしの影響もあるように思われる。若干の入れ替わりはあっても今より若くなることはないと思うが、同和地区内外に非識字者がいないということではないと考えている。
大阪府の2000年調査(「同和問題の解決に向けた実態等調査」)の結果によれば、堺市は非識字の率が他地区より3ポイント高かったし、地区外からの学習者は識字に通っていることに気づかれないようわざわざ遠回りして来て、職場では書けないことを誰にも知られていないという。そういった人々に呼びかけるのに、紙に書いたものを配っても意味がない。どうすれば掘り起しができるかが、今後の課題である。
また、外国人学習者にとっては生活のために働くことが第一なので(特に、仕事に就くための学習を求める場合、生活支援に重点を置いた「つどい」の学習はニーズと合わない)、定着しにくいのはしかたがないが、参加人数が安定しない(夜間の学級に関しては特に、一人の参加者の知り合いが次々と何名も来たり、逆に、何の連絡もなく急に辞めてしまったりもする)ため、講師のやりくりや教材の準備等での難しさがある。
また、学習上では、日本語学習に毎回必要な大きな声での発声練習が識字には妨げになってしまうという悩みがある。両者に満足してもらうには部屋を分けての別々の学習も可能であるが、交流会や料理会等の行事のときだけでなく、普段からともに学習するのでなければ多文化共生の意味がなくなってしまう。しかし、外国人の学習者が来るようになって、識字学習者も刺激を受け、熱意が生まれてきたという面もある。
さらに、かつては小中学校教員によって支えられていた識字講師も、同和加配がなくなった現在、小中学校から各一名の派遣が精一杯であり、ボランティア講師の採用に踏み切った。広報を通じた募集に対して45名の応募、登録者28名、現在定着しているのが15名という現状は、応募者の間で意欲や資質の差があったこと、外国人との学習希望者が多かったことが大きい。ボランティア講師の募集・育成、講師団の育成が課題である。
また、受益者負担、卒業をふまえたカリキュラム、アウトソーシングなど、運営の仕方についていろいろな意見があるという、難しい局面にある。
(文責:熊谷愛)