調査研究

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2010.01.18
部会・研究会活動 <識字部会>
 

識字部会合宿報告

2009年11月22日-23日

<1>内山文献について検討

<2>今後の方針

実質的な活動はしているものの昨年度から部会報告ができていないため、今年度の活動の流れを述べた後、上記合宿の概要を報告したい。

今年度の識字部会では、長らく部会長を務められた故・内山一雄さんの識字に関わる著作を収集整理することと、大阪府内における識字学級の活動について現状を把握し、特に特徴的、先進的な取り組みを見いだしていくことを二大テーマに活動している。

第1回の5/8は、「識字に関する基本文献を読む」と題し、部会長の森実さんから、識字に関わる最も基本的な文献である内山一雄さんの「日本の識字運動」(元木健・内山一雄『識字運動とは』改訂版〈人権ブックレット37〉解放出版社、1992年)と部落解放研究所編刊『生きた字がほしいんや-しきじ-出会い・支援・指導の手引き』(1997年)を解説していただき、日本の識字運動と識字活動を「理念」「方法」の両面から改めて学習した。また、内山さんがこれまで書かれた文献を収集・整理する作業をなるべく早く進めるという方針について再確認した。

第2回目の6/24は、まず大阪市内識字学級の現状について、2006年度末の大阪市青少年会館条例廃止後、継続的な教室訪問による聞き取り結果にもとづいて菅原智恵美さん(大阪市立大学大学院)に報告していただいた。教室ごとに違いはありつつ、会館職員不在・運営費縮小のなか、運動との繋がりが薄れ、コーディネーターを中心にボランティアによって支えられている識字の現状が浮き彫りにされた後、田中聡さん(大阪市立大学大学院修了)からは、特別対策から一般対策への移行期における市内識字学級の事業としての位置づけの変化、参加者・支援者・取り組み内容の変化を整理し、今後の市内識字学級の方向性について、成人基礎教育として生涯学習計画に位置づけ、質的データの蓄積・研究、学習支援者育成や実践交流が必要、との問題提起をしていただいた。

第3回(7/31)、4回(9/2)、5回(11/9)にかけては、内山さんの「遺稿集」出版を目標とした著作リスト作成と、原本収集・コピー等の作業分担、さらに、おおさか識字・日本語センターで進められている「地域における識字・日本語学習環境実態調査」の経過、基礎調査の数量的な分析の概要と、聞き取り調査報告書の構想などに関する報告と意見交換、という今年度の二大テーマに沿って作業・討論を重ねてきた。

主に、内山さん「遺稿集」に収録する著作の絞り込み作業と、「2006年度識字学級活動状況調査」(2007年2月末時点における府内の部落における識字学級の活動状況について、識字部会で行ったアンケート調査)の自由記述の内容分析の作業を行う目的で、第6回は11/22-23に合宿を行った(大阪教育大学柏原キャンパスにて)。

合宿1日目は、内山さんの著作を執筆年代と内容の両面からなるべく偏りなく選び出す作業を行った。大阪の識字運動の原点を学ぶという意味でも1970年代の著作が多くを占める結果となり、「識字運動と教師集団―差別文書をめぐって」(『部落解放』56号、1974年)、「かあちゃんの歌―大阪府連生江支部識字学校のあゆみ」(『解放教育』38号、1974年)、「識字運動―現状と課題」(大阪市教育研究所『研究紀要』130号、1974年)、「識字運動―そのめざすもの」(『天理大学学報』130輯、1981年)、「『あいうえお』からの解放運動―いま、大阪の識字運動は」(村越末男・梅原達也編『同和教育風土記2大阪府の部落問題と同和教育』明治図書出版、1985年)、「被差別部落の識字運動―歴史と課題」(日本社会教育学会編『日本の社会教育第35集国際識字10年と日本の識字問題』(東洋館出版社、1991年)、「識字運動と識字・日本語学習―運動の原点から考える」(『部落解放』563号、2006年)に加え、公刊されていないものから、「生江識字学校講師団会議基調提案」(2006年)、「今後の生江識字のあり方」(2007年)が選び出された。

2日目はまず、これからの識字の課題について、参加者一人ひとりが思いつく限り書き出して模造紙に貼りつけていき、それらの相互関連を考えながら各課題のつながりや全体像を考える、全員参加のワークショップ形式で整理を行った。

大阪の識字・日本語連絡会では2005年に「識字・日本語学習推進法」要綱案を作成したが、その制定をめざす運動は本格的に展開されてこなかった。かつての活気が失われている識字を、運動、行政、学校、地域、日本語学習、国際的動向などとの関わりから捉え直し、これからの方向性を追求していくうえで、すでにある「識字・日本語学習推進法」要綱案を活かしつつ、識字法推進をめざすことが、政権交代の実現した現在、求心的な課題として設定できるのではないか、そのためには全国的な識字の現状の把握や、識字と成人基礎教育との関係、識字の教材・方法論等の整理も同時に行っていく必要がある、といった方向で議論をまとめた。

残りの時間を使って、最大の懸案だった2006年度調査の自由記述の分析について、参加者全員で執筆を分担した。学級運営、学習形態・内容、教材、学級運営、今後の方向性・目標、学習者・パートナー(講師)募集の工夫・悩み、「よみかきこうりゅうかい」「ブロック別交流会」への参加と「地域連絡会組織」の有無、運営費などに関する悩み等について、それぞれ全体の傾向と特徴的な事例を抽出する形で原稿化の作業を行い、残りの作業を含めて、年内完成をめざす。

(文責:熊谷愛)