パウロ・フレイレは、「人間解放のための識字」「課題提起型学習」などを唱え、世界の識字運動に大きな影響を与えました。世界の識字運動の中で、最も有名な人物だと言ってよいでしょう。彼は、ブラジルの中産階級の家庭に生まれながらも、こども時代には飢えによる1年間の休学などを経験しています。青年になって識字教育に関わりだしてからは軍事クーデターによる投獄・国外追放などの体験を経て、ブラジル国内のみならず各国の識字教育に携わるなかで自らの教育思想と教育学を築き上げました。
彼が教育の目標とするのは、「意識化」です。つまり、学習者自らが自分たちの生活・経験をとらえかえして、批判的に社会を見つめ、自分の生きるべき方向を見いだすようになることです。そのための教育の方法として、彼は「課題提起型学習」を提唱しました。これまでのように権威主義的に知識を教え込む「貯金型学習」では、抑えつけられてきた人々にとって意味がない。生活の中から学習課題を抽出して、対等な対話を通じた学習を創り出すことによって「意識化」を達成しようとするのです。
彼の識字に関する考え方は、日本における部落の識字運動の考え方にも通じるものです。
実際1989年に日本を訪れたフレイレは部落の識字学級を訪問し、学習者たちが生い立ちを綴った作品を読んでいる姿を見て感動していました。彼の教育思想は、識字にとどまらず、日本の教育全体を考えるうえで重要です。