調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

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部会・研究会活動 <識字部会>
 
識字部会
4.検討課題

 以上はある程度の方向性が明らかだと思われる諸点である。上にあげた六点以外にも、今後とるべき方向を検討すべき課題は多い。ここでは、項目だけを簡単にあげておこう。

1.級外学習や他地区との交流会など、行事の位置づけ

 識字年以降、教室での学習以外の活動がいっそうさかんに位置づけられるようになった。ときには宿泊を含む他地区との交流会もしばしば設定されるようになった。

 こうした教室外の活動は識字を活発化させることにつながることが多く、おおむね好意的に評価されている。しかし、そうした活動が必ずしも識字活動の発展につながっていない場合がある。各地の成功例・失敗例を持ち寄り、成功のための条件を探るべきである。

2.オガリなどの創作と練習、上演などのありかた

 10年ほど前から、オガリが各地でさかんに行われるようになった。「おがる」とはムラ言葉で、大声で自分の思いを語るというほどの意味であり、「オガリ」とは識字に関わる人びとが自らの経験や思いを語る群読や構成詩のことである。自らの被差別体験や運動への立ち上がりを集団活動を通して表現するオガリは、解放運動の一環として貴重である。オガリがもとになって、演劇にまで発展した地域もある。優れたオガリがたくさんつくられてきている一方、なかなかオガリができないという地域も少なくない。書かれた文章を読みながら発表していくというオガリのスタイルは、読み書きを一から学ぼうとする人にとっては難しい場合もある。これに代わるものとして、たとえば替え歌や踊りに思いを込めたりしている地域もある。これまでの作品を集約しっつ、オガリだけに囚われない幅広い舞台表現を追求すべきであろう。

3.夜間中学校や公民館の日本語読み書き教室との連携のありかた

 部落の識字は、読み書きに不自由している部落出身者を対象に、読み書きを中心にだいたい週一回の割合で開かれている。それに対して夜間中学校は、義務教育を終えられなかった人びとを対象に、毎日開かれ、学習内容も読み書きだけではなく中学校の課程全体を含んでいる。文字の読み書き能力を身に付けるには、集中して毎晩でも学習を積み重ねることが望ましい。家庭など生活を抱えている学習者にとっては、逆に毎日だとかえって通いにくいという場合もある。また、部落の識字は一対一が基本となっている場合が多いのに対して、夜間中学校は教師ひとりに生徒は10人を超えることが多い。公民館で開かれている日本語読み書き教室は、参加者、内容、講師、条件など、いずれをとっても多様である。お互いの違いを生かしあいながら、読み書きに不自由している人たちにとってもっとも利益になるよう、今後のありかたが検討されるべきである。

4.運営委員会の責任ともちかた

 大阪府下の識字学校のはとんどには、すでに運営委員会が作られ、定期的に会合を開いている。解放同盟の支部が責任をもち、識字生代表や解放同盟女性部の担当者が運営委員会に入ることによって、識字生の要求が置き去りになることを防ぎ、識字生の参加を真の意味で実現することが可能となる。識字生の年齢格差も大きくなっており、高齢層と若年層を結び付けるためにも、運営委員会が重要になる。ともすれば受講生が講師に対してへりくだった関係がはびこりかねない。運営委員会は、講師と生徒の関係に表れたこうした歪みを点検し、対等な関係を発展させるためにも不可欠である。地域によっては、運営委員会の下に教材作成委員会や識字ニュース編集委員会などが設けられ、活発に活動を行っている。このような経験を交流しあい、運営委員会のもつべき役割とそのもちかたを明確化すべきである。

5.ケーススタディの必要性とそのありかた

 識字の成果は主として学習者の書いた文章として残されている。学習者の文章の中には、一人ひとりの人生がこめられている。しかもそれらは、もし彼ら彼女らが識字に関わらなければ残ることのなかった歴史の重要な一コマを証言しているのである。こうした文章の価値は、いくら語っても語り過ぎることはないであろう。残念なのは、文章が書かれた背景についての情報がほとんど残されていないことである。書かれた内容だけでは分からないその人の人生、その人が書くにいたった経緯、講師としての関わりかた、その人の読み書き学習の経過など、書き残されるべきことはたくさんある。講師の側にも書くことがもっと求められるべきである。