調査研究

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識字部会
3 日本語の会話や読み書き能力
(1) 日本語の聞き取り能力

 日本語の聞き取り能力については「ぜんぜんわからない」「少しわかる」「半分くらいわかる」「よくわかる」の4段階で自己評価してもらった。その結果、全体ではそれぞれ7.2%、37.6%、13.0%、42.2%、地区で0.3%、2.9%、8.6%、88.2%、地区外で9.7%、50.5%、14.7%、25.1%であった。「よくわかる」と答えた人が、日本語の聞き取りに支障のない人だとすれば、地区外教室回答者の4分の3が、日本語の聞き取りに何らかの不自由をかんじていることになる。これを出身告別にみると「よくわかる」の比率が高いのは、順に日本91.4%、韓国・朝鮮62.9%、ブラジル24.6%、中国11.1%、フィリピン10.0%となっている。居住年数で考えてみても、20年を超える人の多い韓国・朝鮮出身者の比率が高いのにはうなずけるが、比較的居住年数の長いフィリピン出身者の非理がかなり低いことには疑問が残る。なお、比較的年数の浅いブラジル出身者の比率がやや高いこと、また日本出身者でも約1割が日本語の聞き取りに不自由を感じていることにも注目する必要がある。

(2) 日本語での会話能力

日本語での会話能力については「ぜんぜん話せない」「少し話せる」「話したいことは半分くらい話せる」「日常の会話はできる」の4段階で評価してもらった。全体ではそれぞれ8.2%、37.9%、11.6%、42.2%、地区で0.3%、2.9%、6.3%、90.5%、地区外で11.1%、50.9%、13.6%、24.4%となっており、ここでも聞き取り能力と同様、とくに地区外教室回答者の4分の3が日本語での会話に不自由を感じていることがわかる。これを出身国別にみると「日常会話はできる」の比率が高いのは、順に日本94.4%、韓国・ちょぅせん71.1%、フィリピン40.0%、ブラジル23.7%、中国6.3%となっている。ここで興味深いのは、とくに韓国・朝鮮、フィリピン出身者の「日常の会話はできる」の比率が、先の聞き取り能力における「よくわかる」の比率よりもかなり高いということである。つまりこれらの人びとは、日本語の聞き取りには不自由していても、日常の会話ならできると感じているのである。この点に関しては、「日常の会話」の内容について、もう少し掘り下げて考えねばならないだろう。

(3) 日本語を読む能力

日本語を読む能力については「ぜんぜん読めない」「ひらがなが読める」「カタカナが読める」「漢字が少し読める」「漢字が読める」という5つの選択肢を設け、自己評価してもらった(複数回答可)。その結果、全体ではそれぞれ7.6%、64.4%、49.6%、57.1%、18.4%、地区で1.7%。52.8%、48.9%、49.4%、50.4%、地区外で10.0%、69.1%、49.9%、60.2%、5.6%となった。とくに地区外教室回答者の場合、ひらがなや漢字が少し読めると感じているひとはかなりいるが、漢字がじゅうぶんに読める程度になるときわめて少数になる。また、まったく読めないと回答している人も1割に及んでいる。ちなみにまったく読めないと回答した人を出身国別にみると、ブラジル(15.5%)、中国(12.2%)が高い比率を示している。

(4) 日本語を書く能力

日本語を書く能力についても、読む能力と同様に「ぜんぜん書けない」「ひらがなが書ける」「カタカナが書ける」「漢字が少し書ける」「漢字が書ける」という5つの選択肢を設け、複数回答を可とした。その結果、全体ではそれぞれ6.6%、66.3%、50.1%、54.2%、21.5%、地区で1.7%、54.3%、50.1%、57.2%、38.6%、地区外で8.6%、71.0%、50.0%、53.1%、14.7%となった。読む能力の数値と比較して興味深いのは、地区外教室回答者の「まったく書けない」と答えた人の比率(8.6%)が、「まったく読めない」と答えた人の比率(10.0%)を下回っているということ、また「漢字がじゅぅぶん書ける」と答えた人の比率(14.7%)が「じゅぅぶん読める」と答えた人の比率(5.6%)を大きく上回っていることである。ここでもまったく書けないと回答した人を出身国別にみると、ブラジル(20.7%)、中国(9.7%)が比較的高いが、中国の比率が若干下がっている。逆に漢字がじゅうぶん書けると回答した人を出身国別にみると、日本(35.5%)、中国(22.1%)の比率が圧倒的に高い。つまり中国出身者の場合、漢字を日本語の発音でよめなくでも、書くことはできるということだろう。

(5) 日常の生活行動能力

日常の生活行動能力については、あいさつや世間話、買い物、テレビの視聴やカラオケ、手紙やハガキを日本語で書くなどの22項目を「簡単にできる」「難しいができる」「難しくてできない」の3段階で回答してもらった。図7図8は、地区・地区外教室それぞれの回答者の日常生活行動の難易度をグラフ化したものである。この数値は「簡単にできる」に1点、「難しいができる」に2点、「難しくてできそうにない」に3点という得点を与え、項目ごとに回答者の平均点を算出したものである。したがってこの数値は、1に近づくほどその行動が容易であることを示し、3に近づくほど困難であることをしめしている。

まず両グラフを見て一目瞭然なのは、地区外教室回答者の難易度が全般的にかなり高いということである。ちなみに地区・地区外教室の難易度の平均値・最大値・最小値・は、それぞれ1,238・1,620・1,052、1,978・2,592・1,306 であった。つまり地区外教室回答者の方が、日々のいろいろな生活行動に、より困難を感じているのである。それではもう少し、それぞれのグラフについて詳しくみてみよう。

地区教室回答者の場合(図7)、難易度の最大値がかなり低いうえに、最大値と最小値の差も比較的小さい。ここではこの難易度の最大値と最小値の差を3等分し、全体の項目を「やや困難」な群(難易度1,430〜1,620)、「容易」な群(難易度1,241〜1,430)、「かなり容易」な群(難易度1,052〜1,241)の3つに分けた。少し長くなるが、その結果を列挙すると、(1)「やや困難」群=「政治や社会のことについて自分の意見や考えを話す」「仕事の書類を読んだり書いたりする」「日本語の新聞を読む」「履歴書を日本語で書く」、(2)「容易」群=「ハガキや手紙を日本語で書く」「役所や学校からの『おしらせ』(日本語のもの)を読む」「生まれてから今までのこと(生い立ち)を話す」「子どもの絵本(日本語のもの)を読む」「日本語でカラオケを歌う」、(3)「かなり容易」群=「近所の人と世間話をする」「テレビでニュース番組を楽しむ」「駅の自動券売機でキップを買う」「食堂で食べ物を注文する」「お医者さんに病気やけがの様子を話す」「テレビで音楽番組を楽しむ」「自分の住所を日本語で書く」「日本人に電話をかける」「テレビでお笑いバラエティーショーを楽しむ」「食料品や日用品を買う」「テレビでドラマを楽しむ」「近所の人とあいさつをする」「自分の名前を日本語で書く」となる。

これに対して地区外教室回答者の場合(図8)、難易度の最大値がかなり高いうえに、最大値と最小値の差もかなり大きい。ここでも地区教室回答者の場合と同様の操作を行い、全体の項目を「かなり困難」な群(難易度2,162〜2,592)、「やや困難」な群(難易度1,734〜2,162)、「容易」な群(難易度1,306〜1,734)の3つに分けた。その結果を示すと、(1)「かなり困難」群=「仕事の書類を読んだり書いたりする」「政治や社会のことについて自分の意見や考えを話す」「日本語の新聞を読む」「履歴書を日本語で書く」「日本語でカラオケを歌う」「ハガキや手紙を日本語で書く」「生まれてから今までのこと(生い立ち)を話す」、(2)「やや困難」群=「役所や学校からの『おしらせ』を読む」「子どもの絵本を読む」「お医者さんに病気やけがの様子を話す」「日本人に電話をかける」「テレビでニュース番組を楽しむ」「近所の人と世間話をする」「テレビでドラマを楽しむ」「テレビでお笑いバラエティーショーを楽しむ」「テレビで音楽番組を楽しむ」「食堂で食べ物を注文する」、(3)「容易」群=「自分の住所を日本語で書く」「食料品や日用品を買う」「近所の人と」あいさつをする「駅の自動券売機でキップを買う」「自分の名前を日本語で書く」となる。

以上の結果を概観すると、まず地区・地区外とも、より難易度が高いのは、読み書きに関わる行動である。その中でもとくに仕事関係の書類や新聞、履歴書といったものが群を抜いて高い。またハガキや手紙を書くこともかなり上位に位置している。そしてこれらの行動は、地区・地区外の難易度の差でみても、もっとも大きい部類に属している。これに対して、同じ書くことでも、自分の住所や名前を書くことについては、地区・地区外ともかなり容易な行動となっている。これは、この行動が比較的単純なものであるうえに、日常生活においてより頻繁にもとめられるからであろう。

次に話す・聞くことに関わる行動については、概して読み書きに関わる行動より容易なものとなっている。ただし政治や社会についての考えを話すということは例外で、最も難易度が高い。またとくに地区・地区外で難易度の差があるのは、電話をかける、医者に病状を話す、生い立ちを話す、世間話をする。などであった。最後にその他の生活行動については、地区・地区外とも、食料品・日用品を買う、あいさつをする、券売機でキップを買うなどの行動がもっとも容易なものとなっている。これもやはり、日常生活において必要度の高いものばかりである。また地区・地区外で難易度に差があったのは、カラオケを歌う、テレビ番組を楽しむ、食堂で注文するなどであった。とくにカラオケを歌うことなどはもっとも難易度の差が大きく、テレビ番組を楽しむことについても、かなりの差があるといってよい。