調査研究

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7 今後の課題
 以上が「学習者調査」の結果の概略である。これらの結果に目を通してみると、地区・地区外教室の特徴の違いを改めて思い知らされる。ここでは最後に、以上の結果をもとに地区・地区外教室それぞれの問題点を簡単に整理することで、今後の課題の一端が示せればと思う。

(1) 地区教室

 まず第一に、本調査では、地区教室の学習者に高齢でひとり暮らしをしている女性が比較的多いことが明らかになった。これは今までにもいわれてきたことだが、本調査によって、ある程度量的に把握することができた。とくに60歳代以上のひとり暮らしの比率の高さには、目をみはるものがある。

  このような結果と関係してか、現在の関心事については身体のことや老後のことと答える人がかなり多く、行政への要望なども「安心して病院にかかれるようにしてほしい」や「困ったとき相談にのってほしい」といった項目の比率がかなり高かった。ひとり暮らしの生活で、相談できる人もあまりなく、身体のことや将来のことに不安を抱かざるを得ない学習者の姿を思い浮かべるのは、筆者だけであろうか。

   また教室での成果について尋ねたところ、「知り合いがふえた」「人前にでることに自信が持てるようになった」「自分の人生をふりかえることができた」などの比率がかなり高かった。教室という場が、読み書きの学習のみならず、友だちをつくったり、自分に自信をつけたり、自分の人生をふりかえる場になっているのだろう。学習の内容もさることながら、地区のこうした人びとが集い、交流することのできる識字教室という場が存在することの意味を、いま一度じっくりと考えてみる必要がある。

 第二に気づかされたのは、地区教室の学習者の学習年数にかなりのばらつきがあることである。筆者にとっては意外であったが、地区教室の学習者はあまり固定化していないようだ。また少数ではあるが、地区教室にも外国人の学習者が在籍している。このように、教室が一部の人だけのものらなるのではなく、多様な人びとの出入りする風通しのよい雰囲気になっていけば、教室はより活性化していくのかもしれない。

最後に注目しておかねばならないのは、地区教室学習者の知り合いで、読み書きに不自由しているのに教室に来ない人が、600人近くもいるということである。この数を本調査の対象となった地区教室の数で割ると、一教室平均約14人となる。これは実際の数値ではないが、おおよその目安として考えても決して少ない数字ではない。そのうえこの人たちの来ない理由の多くが「勉強しても無理だと思っているから」である。

  このような個人の意識の問題は、一筋縄では解決できないだろう。たとえば、地区教室学習者の多くが「教室に通っている知り合い」に誘われて参加したことを考えると、現在教室に通っている人自身が、困っている知り合いを地道に誘い続けるといったことも重要になってくるだろう。そのためにもまず、いま教室に通っている学習者自身が困っている友人を誘い続けたいと思えるような、教室の雰囲気、教室の活動をつくりあげていく必要があるのではないだろうか。

(2)地区外教室

まず第一に本調査では、地区外教室の学習者に外国出身の人が多いということが明らかになった。なかでも中国、韓国・朝鮮、ブラジル、フィリピンなどの出身者が多く、とりわけ中国出身者は全体の6割近くを占めている。韓国・朝鮮出身者は日本での生活がかなり長いいわゆる「オールドカマー」で、中国やブラジル出身者は、そのほとんどが日本に来て2〜3年以内といったいわゆる「ニューカマー」である。それゆえ日本語の聞き取りや会話に不自由を感じている人が、地区外教室学習者の実に4分の3に達している。

  そしてこのことは、たとえば日本人に電話をかけたり、病院で病状を説明したり、近所の人と世間話をするといった日常の生活行動にも大きな影響を及ぼしている。つまりこれらの人びとにとって、日本語の会話をマスターするかどうかは、死活に関わる重要な問題の一つなのである。したがって地区外教室ではとくに、このような人びとの強いニーズに応えられるように、生活に即した日本語の学習支援のノウハウを蓄積しておくべきであろう。

本調査の結果で第2に注目されるのが、行政の取り組みである。教室の認知経路について、地区外教室では「知り合いに誘われる」に次いで「役所からのおしらせ」「役所の人の紹介」と回答した人の比率が高かった。これらの結果から、日本語の能力に乏しい学習者が、役所の「お知らせ」をどのようにして入手したのか、またそれをどのように読んで理解したのかという点についてはわからないが、地区外教室学習者の教室への参加に、行政の取り組みが何らかの役割を果たしていることは事実である。したがって学習者の教室への参加を促す行政の取り組みについて、具体的な事例を整理しておくことも重要であろう。

  また教室や行政への要望について、地区外教室では「困ったときに相談にのってほしい」の比率が群を抜いて高かった。地区外教室学習者にとって、日常生活での悩みや困っていることを相談できる人が、あまりにもいないのである。仕事や子どもの教育のこと、住まいのことなどを気軽に相談できるような行政のサービスや教室での生活相談が強く求められている。

最後に強調しておかねばならないのは、やはり地区外教室学習者の知り合いで、読み書きに不自由しているにもかかわらず教室に来ない人の存在である。その数は2,990人で、1教室平均に換算すると、約53人となる。

  またこれらの人びとが教室に来ない理由については「時間がない」「教室が近くにない」「お金がかかる」が上位を占めている。通学方法や通学時間のところでも明らかになったように、実際に地区外教室学習者は、電車やバスに乗り、1時間以上もかけて教室に通っているのである。したがってこれらの人びとの場合、時間・場所・お金などの条件的な問題さえ解決すれば、すぐにでも教室にやってくる可能性は高い。実現はなかなか難しいだろうが、できるだけ数多くの教室を開設することが求められているのである。

  そのためにはたとえば、今後も余裕教室が増え続けるであろう学校をうまく利用するといったことも考えられるだろう。小学校や中学校なら、どの地域でも徒歩や自転車で10分もかければ通える距離にあり、気軽に立ち寄れる場所だからである。日本で何かと不自由な生活を送っている外国人にとって、職場や自宅の近くに気軽に立ち寄れるような読み書き教室があることは、たいへん心強いことなのではないだろうか。