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伝承文化部会・学習会報告
1998年4月27日
部落解放研究と民俗学の課題

(報告)政岡伸洋(仏教大学)

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 伝承文化部会では「逵田良善日記」の解読がほぼ終了したことに伴い、今年度に入り、被差別部落と民俗学、民俗誌の研究をより深める学習内容を設けることになった。その最初が仏教大学の政岡さんによる報告であった。報告内容はすでに『部落解放研究』(第117号、1997/8月号、部落解放研究所)に論文として掲載されたものであり、その内容をより深める形で報告され、論議された。

 民俗学は柳田國男によって樹立された学問であり、その研究はあらゆる領域に及び、膨大な書物を著している。柳田は被差別部落民に対しても、大正の初め頃までは、研究対象にしており、「所謂特殊部落民ノ種類」を発表しており、非常民も研究対象にしていた。

ところが民俗学が確立されたころから、次第に柳田は被差別民を研究対象に入れなくなった。そのためか、民俗学では被差別部落を研究・調査対象にすることはなかった。その理由として、柳田民俗学は単一民族文化論を前提に研究が進められてきたことと、研究手法である「重出立証法」「周圏論」が挙げられると指摘された。

 しかし、近年、新たな方法論として福田アジオの「個別分析法」、宮田登の「地域民俗学」が登場した。これらは地域性を非常に意識したもので、今まで排除されてきた人びとの民俗を考える上で有効な方法論であるとした。また、差別をめぐる民俗として、ケガレ論を軸に検討する動きも出てきている。さらに、永瀬康博の『皮革産業史の研究』、沖浦和光の『竹の民俗誌』等にみられるように被差別部落の特徴的な仕事を取り上げた研究が見られる。


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 被差別部落の民俗誌は最近各地で出版されているが、まだまだ少ない。大阪では部落解放研究所『被差別部落の民俗伝承』、乾武俊『伝承文化と同和教育』『民俗文化の深層』、中村水名子・坪井和子・多田恵美子『被差別部落 その生活と民俗』等が出版されている。

 これらをみて、

(1)被差別部落の民俗誌的研究成果の積み重ね、

(2)それを踏まえた上での部落外との比較、共通と違いを詳細に検討、

(3)民俗の差異と差別の問題、日本文化は多様であるという認識、違いを差別に利用されていないか、

(4)差別の具体的な聞き取り、どのような論理で差別されてきたのか。

 これらの課題を積極的に追求していかなければならない、との報告であった。

 報告を受けて、伝承文化部会が関わってきた『被差別部落の民俗伝承』(部落解放研究所)の積極的な活用とPR。また、被差別部落の民俗の異質面をとらえ、もっと強調するのか、あるいは本質的に同質論であり、同質の中での異質を探るのかが論議された。そして、部落解放研究に民俗学はもっと積極的に問題提起していかなければということであった。

(室田卓雄)