調査研究

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部会・研究会活動 <歴史部会>
 
歴史部会・学習会報告
1999年3月
前近代部落史研究の現状と課題
―1998年を中心に

藤井寿一(和歌山地方史研究会)


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要旨は、以下の通り。

中世〜近世移行期

主要な論文としては、片岡智「十五〜十七世紀における非人宿の展開」、山本尚友「中世末・近世初頭の洛南における賤民集落の地理的研究」、山村雅史「「北山十八間戸」の移転に関する考察」などがあり、その他に貝塚市東遺跡の発掘と保存運動があった。

身分制論

近世身分制論としては、塚田孝『近世身分制と周縁社会』、峯岸賢太郎「虚妄の部落史」、臼井壽光「部落史における差別の性格」、片岡智「奈良における「部落史」再検討についての所感」、斎藤洋一「近世信濃の「庭掃」について」などの諸業績がある。

賤視と畏れ〜祭礼を担う被差別民

沖浦和光・宮田登「ケガレと差別をめぐって」、藤井寿一「神事祭礼と被差別民」などがこの問題を取り上げている。

生活と労働

この分野では、片岡智「近世海村における賤民の存在形態」、畑中敏之『雪駄をめぐる人びと』、谷口勝巳「近江国皮田村医師「皐月秀見」初論」、のびしょうじ『食肉の部落史』、布引敏雄「硝煙製造と幕末の被差別部落民」などのほか、中島久恵「モノになる動物のからだ」も詳しい。

諸被差別民

‡@総論として山本尚友「諸賤民集団研究の課題」があり、その他‡A非人、‡B夙、‡C三昧聖(隠坊)、‡D乞喰、‡E鉢屋、‡F芸能民など、多くの成果が上がっている。

近代への萌芽

六郷寛「広島藩における皮専売反対闘争」、山西康之「幕末・維新期における朝来郡H村「村高返還闘争」について」、樋口和雄「信州松代藩における被差別部落の騒動」などがこの分野の業績として上げられる。いずれも佐々木潤之介の世直し状況論にリンクする可能があり、奈良が提起する「18世紀における地域社会の転換」は各地域において検証できないのではないか。

地域被差別民史の構築に向けて

近年、大阪の部落史編纂の過程で実証的な多くの論文・史料紹介がされているほか、三重県人権問題研究所、和歌山県部落解放・人権研究所が創立された。こうした着実な歩みが進んでいる一方で、「部落史の見直し」「部落史観の転換」に背を向ける逆流も存在していることを懸念する。

 

(以上、文責は事務局。詳しい内容は『部落解放研究』129号<99年8月刊>の歴史特集に掲載の予定)