調査研究

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大阪の部落史通信・16号(1998.12)
図書紹介

『新修池田市史』第五巻
民俗編(一九九八年三月)

室田卓雄(部落解放・人権研究所伝承文化部会)

大阪府池田市から『新修池田市史』第五巻 民俗編が出版された。昨年三月に『新修池田市史』第一巻が発行され、それにつぐ発行である。旧版のものは『新版池田市史』概説篇として、一九七一年に発行されており、このたびの通史の発行は、実に四半世紀以上経過したものである。しかし、この間、市史編纂事業は史料編の編集が中心となり、史料編23『伊居太神社日記』、456『稲束家日記』、9『大庄屋日記』等が発行されてきた。

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このたび発行された第五巻、民俗編は他市町村刊行の市町村史と比較して、きわめて編集内容が独創的である。

最初、第一節「日本民俗学における池田」にも述べられているが、池田市内の民俗調査、研究報告は今まで十分なされていなかった。そのため、すでに刊行されていた『池田市史』各説編(一九六〇年刊)、『池田・昔ばなしと年中行事』(一九八二年刊)、『北摂池田―町並調査報告書―』(一九七九年刊)をはじめとする民俗とかかわりの深い文献を参照しながらも、民俗編の発行に際して、執筆者による調査が行われた。

特に古江に関しての刊行物は、池田市教育委員会発行の『森家文書』(一九七四年刊)、『如来寺文書』(一九七五年刊)があったが、古文書中心の史料編に等しい内容のものである。民俗に関しては、ささやかな『古江の歴史と民俗』(一九九二年刊)がある程度であった。故盛田嘉徳の「北摂K村記」は、盛田が終戦後古江に居住していたこともあり、そこでの生活を通して書かれた民俗であり、今日においても高く評価されている。また、部落解放研究所編発行の『被差別部落の民俗伝承・大阪』(一九九五年刊)には、池田の古江の民俗も紹介されている。

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市史という一般市民をはじめ、多くの人の目にふれる書物にどれだけ、地域の被差別部落のことを記述するかということは、大変難しいことである。先に紹介し、刊行されてきた『池田市史』には、残念ながら被差別部落については、一片の記述もなかった。『新修池田市史』第五巻に、はじめて第四章「細河の民俗」の第四節に「古江」として紹介された。第四章の「細河の民俗」では、旧六村があり、各節で各地域の民俗、「環境と生業」「日常の生活」「社会組織と信仰」「年中行事と人生儀礼」の項目について取り上げられている。そして、十五ページ前後で要点記述されている。

「古江」については、本村と隣接しての、被差別部落の「古江」があり、本来であれば、本村を含めた民俗調査を行い、記述されなければならないが、節の冒頭で「ここで取り上げている内容は北古江自治会の範囲である」と但し書きがある。本村の民俗は、他の細河郷五村と共通することが多いと推測され、被差別部落を取り上げる方が、今日的な部落問題の解決、同和教育を進めるにあたって有益であると判断された。

そして、全体を通して、民俗調査の聞き取りでは、話者の中には差別意識がなくても、言葉として出てくることがある。差別表現やプライバシーにかかわる内容については、編集段階で慎重に検討したという。話者の意識、伝承をできるだけ正確に再現することが大切であるが、差別意識を掘り起こし、拡大するようなことになってはならない。そのため、第二節「差別伝承」の中で、男女差別、部落差別、障害者差別、乞食差別等について、注意が必要と考える視点を簡潔に記述されていることも大きな特色である。そして、そのままでは差別表現につながる本文各所の記述のところでは、第二節「差別伝承」の項参照としている。

民俗編は全体を通して、多くの市民を対象として、分かりやすい記述になっている。歴史と民俗の専門家にはやや物足りなさを感じる人がいるかもしれないが、身近な自分たちのかつての生活、そして祭礼等、今日の民俗まで記述され、多くの市民には興味深く読まれている。

第五巻の編集責任者は、市史編纂委員の森栗茂一(大阪外国語大学助教授)である。A五判 上製本箱入り 総頁約八〇八頁。定価四五〇〇円。