調査研究

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大阪の部落史通信・24号(2000.12)
『寝屋川市史』第四巻近世史料編úJについて

尾崎安啓(寝屋川市教育委員会市史編纂課係長)

 今回発刊した『寝屋川市史』第四巻 近世史料編úJは、続く第五巻 近世史料編úK(二〇〇一年三月発刊予定)と対を成す史料編で、市内各所の旧家や自治会などに遺されている古文書・古記録などを調査した成果の一部である。内容構成としては、第四巻 近世史料編úJが、主に村関係の史料を収載し、第五巻 近世史料編úKの方には複数の村が関係するような広域的な史料を収載している。近世の村は、それ独自でも完結した自治組織であり、また近隣や遠方の地域とも関係しながら存在していたことは、周知のことである。そこで、村内自治と生活のあり方について史料編úJで紹介し、村どうしの水をめぐっての様々な利害調整や家を中心とした問題を史料編úKで紹介しようという編纂意図で編纂されたものである。

 編纂は、市史編纂委員の乾宏巳氏(大阪教育大学名誉教授)が責任編集、同三島利三氏(市文化財保護審議会副会長)と専門委員中尾健次氏(大阪教育大学教授)が編集にあたった。特に寝屋川市の特徴である「水をめぐる諸問題」については、史料編úKの方で地元の事情に詳しい三島氏が担当し、村内生活や家の問題などを乾氏が担当した。

 市史の編纂に必要な地元の史料についての調査は、一九八九年頃から着手し、担当委員と事務局が一組となって市内各所を悉皆的に行った。寝屋川市は、一九五六年と一九六六年の二回『寝屋川市誌』の編纂を行っているが、いずれも本格的な史料調査は実施されておらず、史料目録についても一部を除いて全く作成されていなかった。このような状況からスタートした今回の史料調査は、旧版『寝屋川市誌』を参考に所在調査から取り組んだものである。すべての村の史料を紹介したいという思いから努力したが、すでに旧庄屋宅が存続していなかったり、文書が失われていたりで、もう少し市史編纂事業が早く着手されていたらと思うことしばしばであった。また、前回の『市誌』編纂から多年が経過しているので、旧版の『市誌』に掲載されている良い史料が今回は現存せず使えないなどの問題も生じてしまった。このような事情で、掲載したほとんどの史料が初めて紹介されるものであり、これまで北河内の中でも史料の空白地帯になっていた寝屋川市の近世史料が部分的ではあるが世に知られることになったことで、大方のご理解を得るしかない。

 さて、発刊した第四巻 近世史料編úJは前述したように村の生活史料を中心にまとめたものであるが、どうしても史料の出ない村があり本当の村別にはできず、市内を明治期の行政村の単位で九個荘地区・友呂岐地区・豊野地区・寝屋川地区・水本地区の五地区に分け編集した。内容分類としては支配・村・産業・家・信仰などに分け、それぞれの地区内の村の史料を使って編集している。掲載した史料の特徴としては、全体として村の人々がどのように生きたのかがわかるような史料、つまり生活に重点を置いたものとなっていることである。今の市民が近世の人々の生活を知ることによって何かをつかんでほしい、そのような意図が込められたものであり、その点が従来の市史史料編とは少し違ったところであると自負している。

 被差別部落を中心とする差別の問題を考えることのできる近世史料は意外に少なく、代表的な史料としては、「第五章 水本地区 1支配」(六九〇頁)収載の文化十一年(一八一四)十一月十二日付、「取替一札之事」(北田清一郎家文書)があげられる。これは、燈油村枝郷と北条村(大東市)の草場境界争論について内済の上取り決めたもので、この時期の草場争論の史料としては貴重なものである。また、同章(六九四頁〜六九五頁)にかけて収載の天明七年(一七八七)燈油村年貢免定と天保七年(一八三六)燈油村年貢免定にはいずれも「皮田畑 弐つ七分六厘」とあるが、同章(六九二頁)収載の寛文五年(一六六五)の同免定の段階では、特に「皮田畑」の記載は無い。この一連の史料からは「皮田畑」が別の免割で認識される以前と以後の違いを読みとることも可能で、他地域の同種の史料との比較によって、何らかの成果が期待される。ただ、史料としてあげられるものは、この程度しかなく、近世期の部落史史料は乏しいのが現実である。しかし、近代に入って質・量ともに充実してくる被差別部落の歴史を知るための史料は、近世期からの村社会を知ることによって解釈が可能となることも多く、そのような意味では部落史研究にも一定の意義があるものと考えている。

なお、寝屋川市における部落史の研究成果として中尾健次氏を中心に地区の人々が編集した『今、翔くとき―被差別部落駒池のあゆみ―』(寝屋川市同和事業促進協議会・歴史編纂委員会編集、一九八八年)があり、参照していただければ幸いである。

 付、『寝屋川市史』第四巻 近世史料編úJは寝屋川市教育委員会市史編纂課で一冊五〇〇〇円で頒布しております。また、教育研究機関などには寄贈させていただきますので、相談してみてください。