調査研究

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大阪の部落史通信・25号(2001.3
特別展「わたしたちの町いま・むかし」を開催して 堺市舳松歴史資料館

 舳松歴史資料館では、特別展「わたしたちの町いま・むかし」を二〇〇〇(平成十二)年十一月二十一日から十二月十六日まで開催した。その概要を紹介したい。

開催に至るまでの経過

 当資料館といえば、堺で生まれた将棋名人阪田三?Kの研究で知られており、毎年開催している「阪田三?K特別展」も十二回を数えている。また、一九九八(平成十)年三月には、資料集「反骨の棋士阪田三?K―その栄光と苦難の道―」を発刊し、多くの人びとに実在の阪田三?Kの心や人となりに触れていただいている。

 ところで、当資料館は、部落差別に関する歴史や実態を調査・研究すると同時に地区の人びとの生活・文化・労働にかかわる資料文献等を収集・展示することによって、同和問題の正しい理解を深め、一日も早い部落差別の撤廃に向けての啓発と学習の場としての利用を目的に、一九八八(昭和六十三)年四月、堺市立解放会館二階に開館した。そして、地元の「部落解放堺地区歴史・文化を守る会」の協力のもと、当地区に関する資料を収集し、常設展示している。

 しかし、常設展示だけではスペースの関係等で多くを展示できない状況のなか、部落差別と闘ってきた人びとのいきざまと差別に対する憤りをより多くの方に知ってもらうとともに、新たな資料の発見を期待し、地元をはじめ各方面からの特別展開催要望と相俟って、今回の開催となったものである。

 また、この特別展を今後も毎年継続して開催していくことによって、堺の部落史として一つにまとめることができるのではないかと考えている。

開催目的・展示内容

 当地区は、かつての老朽化した家屋、狭い路地などの劣悪な環境から、今では団地が建ち並び、生活環境改善をはじめ、地区住民の生活の安定・向上など着実な成果をあげてきた。しかし、住環境が改善されたからといって、差別がなくなるわけではない。今なお、教育、就労、啓発等の課題が残されている。

 このような中で、永年にわたって差別に苦しみ、その中で生きるため、差別をはね返すために努力された先人達の姿をとおして、同和問題の正しい認識を深め、身近にある人権問題に気づき、考え、そして新たな行動につながることを願って開催した。

 展示内容は、地区の人びとの協力のもと、いままでに収集・調査・研究してきた資料・文献等の中から、主として明治から昭和にかけての、当地区に残る貴重な資料・写真、この地区の人びとが実際に使っていた生活用具などのくらし・仕事・文化・風習等に関する資料を十二のコーナーに分けて展示した。‡@共愛保育所‡A大仙西小学校‡B舳松青年団‡C戦争‡D布袋湯‡E結婚‡F舳松盆踊り「ドンデンカッカ」‡G仕事‡H生活用具‡I農具‡Jあそび道具‡K町の移り変わりである。

 なお、今回は、この地区の歴史の全体像を見ていただいた。今後は、テーマを絞って深く掘り下げていきたいと考えている。

好評だった特別展

 当資料館では、適性かつ効果的な運営をはかるため、「舳松歴史資料館展示委員会」を設置しており、その委員会で十分な審議が重ねられ、まとまりのある展示となったと思っている。ただ、当初の予定より内容がどんどん膨らみ、思った以上に展示パネルの製作等に時間をとられ、広報活動が十分できなかった。どれだけの人に来てもらえるか不安であったが、一七一七名の方に見学に来ていただき、多くの方に部落差別の歴史をわかってもらえたように思う。九割以上の人から「わかりやすい」「だいたいわかる」という評価も得た。『期間延長して展示してほしい。』『今回の展示パネルをそのまま常設展示されたら。』等の特別展終了を惜しむ声もたくさんあった。

 生活用具・農具・あそび道具のコーナーでは、実際に展示物にさわれるようにしたことで、より身近に感じてもらえたように思う。

 町の移り変わりのコーナーでは、戦後すぐと現在の航空写真を見ながら、自分たちの昔のくらしや解放運動の歩みを確かめている方がおられた。

 また、昔の写真に見入っている見学者から、今後の特別展につながる情報をたくさん得ることができた。次への期待や要望もいただいた。これらのことが、次の特別展開催へのエネルギーになるに違いない。

 たくさんの感想をいただいたので、その一部を紹介したい。

* 戦争を体験した人の書いた文が、とてもすごかった。[十代]
* 大学の授業で初めて知って、広報にも載っているはずなのによく見ていないのだと思いました。同じ堺にいながら今まで訪れなかった、気に留めていなかったこと、自分の無知さをわからせてもらい、もっと知ろうという気にさせてもらいました。[二十代]
* いろいろな視点から「差別」について知ることができ、大変勉強になりました。これからも「差別問題」に取り組み、知識を深めていきたいと思います。[二十代]
* 住吉結婚差別事件に係る遺書の内容を読むと、とても切なく、痛ましい心情が伝わってきた。浅野さんのように結婚により犠牲者が出ないような社会が築かれることが非常に大切であると考え直した。[三十代]
* 差別をなくしたい、信念が強くなった。[四十代]

特別展を終えて

 堺の同和地区に視点を当てたはじめての特別展ということで、どのような評価を得ることができるか未知数であったが、当初の目的をおおむね達成できたように思う。貴重な意見や感想などを聞かせていただいたこと、新たな情報を得られたこと、今後の協力を約束してくださった方がいたこと等大きな成果があった。

 今後の課題としては、中学生や高校生の見学が少なかったことで、小学校などの活動とあわせて考えると、人権学習が中学生や高校生につながるような「働きかけ」が必要である。また、もう少し子どもにわかりやすくした方がよいという意見も若干あり、展示内容や解説などのさらなる工夫をしたい。さらに資料の収集・整理、調査・研究を積極的に推し進めるとともに、一人でも多くの方に来館していただけるよう、早い時期からの、きめの細かい広報活動に努めたい。

 なお、当資料館ではホームページを開設しており、たくさんのアクセスがあった。ホームページを見て遠くから来た人から『来てよかった。感動した。』などの感想もいただいた。現在も特別展展示の一部を紹介しているので、ぜひ一度アクセスしてほしい。