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大阪の部落史通信・26号(2001.6)
和泉市立人権文化センター人権資料室がリニューアルオープン

和泉市立人権文化センター人権資料室

 和泉市立人権文化センター人権資料室が、地域の皆さんのご協力により、二〇〇一年五月一日にリニューアルオープンしました。広さは以前と比較して約二倍となり、展示内容も映像や音声を駆使し、子どもから大人までがわかりやすく、楽しみながら人権問題を考えることができるよう工夫されています。以下、展示内容などを中心に当資料室の紹介をします。

一 和泉市立人権文化センター人権資料室開室までの経緯

 当資料室は、一九八七年一二月に地域の皆さんから貴重な資料を提供していただき開設され、部落差別の中で闘い生き抜いてきた地域の人々の姿を展示してきました。しかし、旧の資料室は、ほとんど手作りに近く単にモノを置いているといった状態のうえ、なおかつ資料室担当職員がいないために、来館者に対して充分に対応できない状態でした。

 こうしたなか、一九九八年に「人権の世紀」といわれる二一世紀をひかえ、従来の同和行政の総合的な窓口から、より発展した人権文化を構築するセンターにしていこうと学識経験者や地元精通者などにより、「人権文化センター基本構想検討委員会」が立ち上げられました。検討委員会では、様々な人権団体が使用できる「共用スペース」の設置、児童書や人権に関する資料が充実している「図書室」の設置、和泉における人権運動の動きや伝承文化などを取り上げた「人権資料室」の設置などが提言されました。

 そして、そのことを受け一九九九年に「人権資料室展示委員会」が設置され一年をかけ展示内容の検討を進め、二〇〇〇年より展示室の本格的な工事に着手し、二〇〇一年五月一日に和泉市立人権文化センター人権資料室としてリニューアルオープンしました。

二 当資料室の特徴

 当資料室は、和泉市北部に位置し、そこには元来池上曽根遺跡をはじめとする古代史跡があり、歌舞伎や文楽で知られる葛の葉物語、小栗判官伝説といった芸能にゆかりのある史跡もたくさん点在しております。また、葛の葉物語を題材にした信太山盆踊りや「田植えうた」「守子うた」などの古くから民衆によって語り継がれてきた文化もたくさん残っています。まさしく「歴史・文化」に恵まれた場所に位置しています。

 当資料室では、それらの「歴史・文化」を人権の視点で見直し紹介しています。しかし、単に紹介するだけではなく、実際地域にある史跡をまわっていただくことで、より理解を深めていただける「地域密着型」の資料室になっています。当資料室の運営は、市直営ではなく地元の解放運動の中からできたNPO法人DASHに委託されています。そのDASHでは、自主事業として、一定の料金をいただき、地域の史跡の案内をするダッシュツアーといった事業を展開しており、地元の史跡と人権文化センター資料室とをつなぐ役割を担っております。

三 展示内容について

 当資料室は、人権運動の流れがわかる通史展示と仕事・生活・まつりなどを取り上げた民俗展示に分かれています。時代の流れがわかる通史展示は、<1>渡来文化と和泉―国境のない自由な交流―、<2>芸能と和泉―「葛の葉物語」と「小栗判官伝説」―、<3>一村独立のかわた村―和泉国南王子村―、<4>南王子村のすがた―村政・青年団・水平社―の四つのテーマに分かれています。

 <1>「渡来文化と和泉」では、本市域は池上曽根遺跡をはじめ多くの古代遺跡が発見されています。特に信太山丘陵地一帯では、朝鮮半島より生産技術が伝わった須恵器が焼かれた窯が多く発見されており、和泉地域と朝鮮半島との交流が盛んであったことがわかります。展示では和泉地域で発掘された須恵器と朝鮮半島で発掘された須恵器を比較し、古代の日本列島と朝鮮半島の交流が盛んであったことを示し、現在の在日韓国・朝鮮人がどのような境遇にあるのかを対比させ、現在の人権と結びつけ紹介しています。

 <2>「芸能と和泉」では、「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」で全国的に歌舞伎、浄瑠璃で知られている「葛の葉物語」を取り上げ、葛の葉物語が被差別地域では独自の解釈で伝えられてきたことを紹介し和泉の文化を人権の観点から展示しています。また、一般的に熊野詣のために使われた熊野街道は、和泉北部地域では、餓鬼阿弥となった小栗判官が土車にのせられ熊野にある湯の峰まで曳かれていった話で有名な説経節「をぐり」から「小栗街道」と呼ばれ親しまれています。小栗判官は伝説上の人物でありますが、餓鬼阿弥とされた姿からはハンセン病患者を連想させることから現在の元ハンセン病患者の現状と対比させ紹介しています。

 <3>「一村独立のかわた村」では、全国でも大変珍しい一村独立の「かわた」村であった南王子村を取り上げています。近世の南王子村は、「かわた」村であったために、長年、神人として仕えていた神社から排斥されるなど、周辺地域から迫害を受けてきました。しかし、南王子村の人々は、新たに自分たちの神社を創建するなどして、「一村独立」であった誇りを持ち続け幾多の差別を乗り越えてきました。また、南王子村では、雪踏業が盛んであったため、経済地盤がしっかりしていたことや長男次男を独立させ末の子に家を継承させる「末子相続」が行われていたことが、人口増加の要因となっています。このことを近世の古文書をもとに、図や文章で紹介しています。また、古文書に記されていた差別事件を映像と模型を組み合わせたファンタビューで紹介するといった工夫もしています。

 <4>「南王子村のすがた」では、近代以降の南王子村を紹介しています。近代に入り南王子村では、隣村との合併の話が持ち上がり村格の危機をむかえます。しかし、南王子村の人々は、合併に反対し一村独立を守り抜きました。そのため融和事業もいち早く進められました。当時、南王子村では、青年団活動が活発で、その中心メンバーが村政を担っていました。また、一九二三年(大正一二)には、全国水平社に刺激され南王子水平社が結成されました。南王子水平社の活動を担ったのも青年団の中心メンバーでした。

南王子青年団では、機関誌『國の光』を発行し、そのなかで青年の恋愛観、結婚観、思想はもとより、差別問題についても語られています。当資料室では、この『國の光』を実物展示し、南王子村の村政、青年団、水平社を支えた人物を写真で紹介しています。現代への視点では、戦後の解放運動として、劣悪な環境から同和行政により、改善された現状や現在の人権の町づくり運動を紹介しています。

 通史展示では今までの博物館や資料館にはあまり見られなかった各テーマごとに「現代への視点」といったコーナーを設け、現在の人権問題と対比させ人権を考える趣向が凝らされています。

 続いての民俗展示では、和泉北部に伝わる「葛の葉伝説」をもとにした信太山盆踊りを地元の方から提供していただいた一九四二年(昭和一七)の盆踊りの写真を拡大し紹介しています。当時、信太山盆踊りは、三日三晩行われ最終日は明け方まで踊り明かしていたそうです。展示している写真は、明け方に撮られた写真で大変貴重な記録になっています。その他に民俗展示では、現在は失われかけている農作業時に歌われた「田植えうた」「守子うた」を二〇年ぐらい前に撮影されたVTRで紹介しています。また、近世に「信太オモテ」で有名だった雪駄づくり、近代に入り和泉北部地域の産業を支えた「模造真珠」「信太ガラス」などを模型をつかって紹介しています。さらに、被差別部落で発達した食文化や南王子村の結婚、葬式といった通過儀礼など、くらしに焦点をあてた展示もあります。民俗展示で一番の目玉は一九六〇年代の地区の生活の様子を再現し、当時、真珠産業で忙しく内職に追われ、食事を作る暇もなかった様子を音声や模型を使って紹介しています。

 このように当資料室は、歴史・文化を人権という観点で読み直し紹介する人権文化を構築する資料室になっています。当資料室では、常設展示の管理だけでなく、三階にあるギャラリーでの企画展示の実施、展示に関わる講演会などの実施、また、和泉地域に関わる歴史・文化の史・資料の収集活動とその研究も行っていく予定です。この文章を読んでいただいた皆さんも是非当資料室へ足を運んでみてください。

〈所在地〉


〈交通〉
〈休館日〉

〈開館時間〉

〈E-mail〉
〈ホームページ〉
〈ダッシュツアーの問い合わせ先〉
〒594-0023 和泉市伯太町6―1―20
TEL 0725―47―1560
FAX 0725―47―1560
JR阪和線信太山駅下車、徒歩5分。
月曜日、祝日の翌日、月曜日が祝日の場合翌日、年末年始など。
午前10時〜午後6時

m471560@ican.ne.jp
http://www.ican.ne.jp/~m4715601(準備中)
TEL 0725―46―3809(NPO法人ダッシュ事務所)