和泉市域の旧南王子村は、旧かわた村の被差別部落であり、一九六〇年に和泉市と合併するまで独立村であった。被差別部落としては規模の大きな村であり、多数の史・資料が残されている。近世史については村方文書が『奥田家文書』(奥田家文書研究会編、大阪府同和事業促進協議会、一九六九―七六年)として刊行され、概説が『ある被差別部落の歴史―和泉国南王子村―』(盛田嘉徳、岡本良一、森杉夫著、岩波新書、一九七九年)にまとめられている。近代史は明治期前半の戸長役場時代の文書を収録した『大阪府南王子村文書』(南王子村文書刊行会編、和泉市教育委員会、一九七六―八〇年)があり、また、南王子水平社の活動を中心に概説が『吾等の叫び―南王子水平社のたたかいに学ぶ―』(南王子水平社創立六十周年記念誌編集委員会、一九八三年)にまとめられている。
本通信第二六号(二〇〇一年六月)で触れたように、二〇〇一年五月にこの南王子村の歴史と民俗を常設展示する人権資料室が和泉市立人権文化センター内に整備され、歴史の公開と地元からの調査、研究の取り組みが本格的にスタートした。また本年二〇〇三年は南王子水平社の創立八〇周年にもあたり、その記念事業として、あらためて南王子村での水平運動にテーマをしぼった図書の刊行と企画展の開催(四〜五月に開催)をした。
『南王子村の水平運動』の構成を紹介すると、まず、「一、図録『南王子村の水平運動』」として、資料写真を収録した。南王子水平社関係資料、南王子村出身で水国争闘事件の弁護団にも参加した弁護士岸田岡太郎関係資料、南王子水平社の母体となった青年団関係資料や前提となる南王子村の村政や生活にかかわる資料も収録した。
南王子村の近代史資料のなかで特徴的なものに青年団機関誌『國の光』がある。本書にはこの『國の光』別冊として刊行された『パンフレットúY1 水平運動号』を収録した。パンフレットは月刊を維持するのが困難になった『國の光』を随刊として、テーマを絞ってより研究的な内容にしていくために刊行された。南王子水平社は一九二三年四月に創立され、『水平運動号』は一一月に発行された。中野次夫、明坂文雄ら青年団、水平社のリーダーたちが文章を書いて、創立大会で配布されたと考えられる「南王子水平社綱領・宣言・決議」が綴じこまれている。また、南王子水平社が西光万吉に依頼した宣伝ビラ原稿なども掲載されている。
『國の光』については本通信第一五号(一九八八年九月)で述べたように、読書会が開催され、渡辺俊雄氏(大阪の部落史委員会企画委員)により総目次がまとめられた。その総目次を「三、南王子青年団機関誌『國の光』総目次」として収録した。時事問題、生活、教養、文芸、差別問題など多彩な内容を総目次から一覧することができる。
「二、『南王子水平社創立の歴史的意味』」では朝治武氏(大阪人権博物館)に寄稿をいただき、『國の光』や部落問題研究所水平文庫所蔵史料をもとに、南王子水平社の創立と初期の運動、組織について検討していただいた。『國の光』掲載文章から青年団のリーダーたちが差別に対してどのように考え水平社創立へと向かっていったのか、警察への公平な対応を求める質問状の提出や妥協を排した差別糾弾の事例、組織としても秩序だった活動をしていたことなどが紹介されている。
本書は創立八〇周年記念事業の一環ということもあり、今までの研究成果の確認という要素も強いが、『國の光』の概要がわかる総目次と『水平運動号』を刊行できたことは、南王子村の歴史を広く知っていただくとともに、さらなる歴史の検証に活用していただくことができると考えている。