調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home > 調査・研究 > 大阪の部落史委員会 > 各号
2005.12.14
前に戻る
大阪の部落史通信・37号(2005.11
 

図書紹介
東の歴史と生活を掘りおこす会編

『新編嶋村の歴史と生活』第一集・第二集

井上秀和(東の歴史と生活を掘りおこす会代表)


 『新編嶋村の歴史と生活』第一集‡€嶋村のおこりと身分制社会‡≠ニ第二集‡€近現代年表編‡≠ェ発刊された。本書は大阪府南部の被差別のむらの歴史である。一九八二年に部落問題の学習教材をつくることをねらいにして『島村の歴史と生活』が出版されたが、このたび新たな資料を使って全面改訂された。出版したのは、教師、地元地区の人たち、市民からなる「東の歴史と生活を掘りおこす会」である。

 改訂のきっかけは、貝塚市教育委員会郷土資料室と和歌山大学の藤本清二郎教授らのグループによって近世の福原家文書が整理され、市民にも利用できるようになったことによる。第一集の中心的な史料である福原家文書とは、江戸時代、代々福田村庄屋を勤めた福原家が所蔵している二万一千点余りの古文書群のことで、そのなかに嶋村の関係文書が二千百点余り含まれていた。一九九四年から藤本氏らの指導をうけながら「東の歴史と生活を掘りおこす会」が学習を積み重ね今回新編の刊行となった。

 第一集の「通史編」では、一五世紀の東遺跡発掘の成果にもふれながら、中世の和泉国の被差別民、嶋村が差別を受けるむらに変わっていく社会の背景、近世へ移り変わり行く時代の流れについて書かれている。「生活編」では、岸和田藩のかわた村の支配と嶋村の生活について福原家文書から、皮づくり・太鼓の張替え・雪駄稼ぎ・御用・藩の財政改革に鹿革を納める・浜稼ぎ・十分の一金・年貢・水争い・疱瘡と飢えに苦しむ嶋村・村医者宗見さんの願い・人の出入り・人口問題など、三三のテーマについてまとめられている。一、二紹介すると、嶋村の人は四種類の草場をもっていたが、草場から運ばれてくる斃牛馬は、皮だけでなく、肉も利用されていて、しかもその肉を岸和田藩の武士が嶋村に注文していた話は興味深い。雪駄店がこわされ差別発言をあびせられるという事件では、嶋村の人たちは、金銀にかえてすむ問題ではないと藩主に訴え差別に対する糾明を求めている。福原家文書に含まれた嶋村関連文書には、嶋村から福田村庄屋を通じて藩や幕府の役所にさし出された文書が多く含まれており、村人の言葉を通して身分制社会における生活が如実に伝わってくる。

 第二集は、明治元年から昭和四〇年までのむらの記録、関係資料を年表形式でまとめた資料集となっている。一年単位で島村についての記録、資料が掲載されているが、同じ年にあった大阪府内や全国の出来事も載せられていて、島村と全国の動きが対照できるようになっている。さらに、地区の人たちから聞き取りをした話が年代とほぼ同じ位置に掲載されている。資料については、貝塚市(旧町、村)の議会議事録や小学校に残されていた膨大な資料の整理、今は廃刊となっている新聞・地方情報誌の記事の調査など、メンバーの精力的な活動によって収集された。

 第二集の内容は、明治期、大正・昭和初期、戦前期、戦後期と四つの時期に分けられている。そのうちの大正・昭和初期では、麻生郷村島村組合村会の動きと予算、屠場使用の状況、部落台帳から生活実態、岸和田での米騒動と島村の消防団、差別事件、融和運動、福原正雄、貝塚での全国水平社の動き、島村の青年団の活動などについて知ることができる。戦後期では、戦災者住宅の建設、地区の住宅事情、府営改良住宅の建設、トラコーマなど衛生問題やむらの人たちの職業・教育などの生活実態、解放運動の動き、部落解放同盟の支部結成などについて、資料や聞き取りの話も増え、当時の地区の事情を知ることができる。

 「東の歴史と生活を掘りおこす会」では、これらの冊子が多くの人に読まれ、人権教育に活用されることを願っている。地元では、むらの歴史から何を誇りとして受け継いでいくのか読み取って、これからの町づくりや解放運動に役立てて行きたいといっている。

 (第一集、A4判、139ページ、第二集、A4判、199ページ、いずれも2005年7月刊、各2,000円)