調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究 部会・研究会活動 憲法問題プロジェクト > 研究会報告
2006.02.21
部会・研究会活動 < 憲法問題プロジェクト>
 
憲法問題プロジェクト
2005年11月27日
中央執行委員会『憲法問題検討会』の論点について

李嘉永(部落解放・人権研究所)

  2005年9月、京都において「部落解放同盟中央執行委員会「憲法問題検討会」が開催された。本報告は、この検討会で各中執から示された論点を整理するものである。まず憲法改正論議それ自体については、いずれかの政治的な立場からではなく、部落解放・人権・差別撤廃という観点からどのようなスタンスを取るかについて、一定の考え方を明らかにすべきとした。また、現在の風潮として、「何となく改憲」という流れになっているが、わが方からは、現行憲法の積極的評価を経た上で、憲法実現の闘いをしてきた経緯を踏まえて、発言していくことが重要であるとのことであった。

  個々の論点についていえば、天皇制については、差別を温存・助長するものとして反対してきたこと、平和主義については、自衛隊のあり方や「国際協調主義」の動きに対して、「戦争は最大の人権侵害・差別」だという視点を持つべきこととした。

  さらに、基本的人権については、人権保障の実現にむけた仕組みの創出について積極的に提言すべきこと、人権や差別の定義づけを明確にすべきこと、社会保障の枠組みについて、困難を抱える人びとの立場に立った制度設計を求めるべきこと、勤労権については昨今の就労困難の課題、ニート・フリーター問題などを視野に入れる必要があるなどの意見が示された。

  さらに、これまで行政闘争に取り組んできた経緯から、住民自治のはしりとして、「新たな公」のあり方を模索する必要がある。さらには、人権立法全般を視野に入れた「人権の法制度」の構築を併せて求めていく必要があるとの意見があった。これらの見解を踏まえて、中間提言の内容を精査していく必要がある。

自民党憲法草案の問題点について

ûü野眞澄(香川大学名誉教授)

 2005年10月28日、自民党は、結党50年を機に「自民党新憲法草案」を公表した。この草案の基調としていえることは、新憲法施行60年を経過して、内外情勢の変化をおり込み、日本の国家像を盛り込むものである。

本草案は、それまでの草案大綱等に見られた「日本らしさ」に関する情緒的な表現や、復古的で保守色濃厚な部分を削り、やや抑制的で、「実現優先」の現実路線へと方向転換するものに見える。ただし、自衛軍の保持と海外派兵・交戦に道を開くほか、政教分離原則の緩和や、政党条項と政党法の是認、憲法改正要件の緩和など、最低限の自民党色を滲ませている。

前文では、「国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を享有」するとしている。また、第9条では、平和主義は継承するとしながらも、戦力不保持の条項を全面的に改正し、「自衛軍」を保持するとした。その結果、自衛軍の活動の3形態として「安全保障」「国際協力」「緊急事態への参加」が明記されている。

「国民の権利」に関しては、第12条の「国民の責務」条項について、「自由及び権利には責任及び義務が伴う」とし、国民は「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務」を負うとした。

他方で、差別禁止自由において障害の有無が盛り込まれ、新たな人権として「プライバシー権」「国民の知る権利」「環境権」「犯罪被害者の権利」「知的財産権」を盛り込んでいる。また、政教分離原則を緩和し、「社会的儀礼」の範囲内にある場合を除外している。

 統治機構において目立った改正権としては、政党法の制定を予定するほか、裁判所として「軍事裁判所」を設置するとしている。また、地方自治においては、「住民参加」を基本に条文構成を改めている。

 憲法改正に関しては、国会の発議要件を現行3分の2から過半数としており、憲法改正を容易にしたいとの意図が明白である。

 総じて言えば、これまでの主張に比べてやや抑制的であるが、改憲論議自体が流動的であるので、今後の帰趨に注目する必要がある。また、主権在民原則の下では、改憲もまた国民が主役でなければならない。この点からすると、多くの国民が共感できる視点や内容が乏しいというべきであろう。

民主党『憲法提言』の概要について
  民主党憲法調査会は、2005年10月31日に総会を開催し、「憲法提言」を了承した。ただしこの提言は、あくまでも国民に議論をしてもらうためのたたき台であることを強調し、与野党協議に柔軟に対応できるよう「見解」の形式を取っている。

  この提言がめざす基本目標は、1.国民が自ら参画し、責任を負う新たな国民主権社会を構築すること、2.普遍的な人権保障を確立し、環境権、知る権利などの「新しい権利」を確立すること、3.「環境国家」への道を示し、国際社会と協働する「平和創造国家」を再構築すること、4.主体性を持った国の統治機構の確立と、民の自立力と共同の力に基礎を置いた「分権国家」を創出すること、5.日本の伝統と文化の尊重とその可能性を追求し、併せて個人、家族、コミュニティ、地方自治体、国家、国際社会の適切な関係の樹立、すなわち重層的な共同体価値意識の形成を促進すること、である。

  自民党案の相違を挙げれば、まず安全保障については、まず「平和主義の考えに徹する」とし、さらに「平和創造国家への転換」が重要であるとしている。自衛権に関しては、「制約された自衛権について明確にする」とし、党執行部の意向としては、集団的自衛権行使容認を検討したとされている。

  人権分野については、「国民の義務」という概念に代えて「共同の責務」という考え方を打ち出している。これは、「地域や世代の対立を超えて、人権あるいは環境についてこれを良好に維持する『責務』を『共同』で果たし、互いに権利を思いやりながら暮らしていける社会の実現を目指す」ものである。公共の福祉についても、かかる観点から再定義すべきこととしている。さらに、政教分離原則については、自民党と異なり、厳格に維持するとしている。

  個別人権課題に関して言えば、自民党の草案と異なり、「あらゆる差別撤廃規定の検討」が明記されている。その他、「人間の尊重」を尊重する観点から、生命倫理、暴力からの保護、子どもの権利と子どもの発達の保障、外国人の人権、人権保障のための第三者機関の設置、国際基準に見合った人権保障体制の確立を挙げている。ただし、「部落問題」と「アイヌ民族に対する差別」についての言及がなく、積極的な差別禁止規定の盛り込みについて「検討すべき」としている。

  新しい人権については、自民党案に上げられた5分野のほか、「情報リテラシー」や「生命倫理及び生命に対する権利を明確にする」としている。

(文責:李 嘉永)