2005年10月28日、自民党は、結党50年を機に「自民党新憲法草案」を公表した。この草案の基調としていえることは、新憲法施行60年を経過して、内外情勢の変化をおり込み、日本の国家像を盛り込むものである。
本草案は、それまでの草案大綱等に見られた「日本らしさ」に関する情緒的な表現や、復古的で保守色濃厚な部分を削り、やや抑制的で、「実現優先」の現実路線へと方向転換するものに見える。ただし、自衛軍の保持と海外派兵・交戦に道を開くほか、政教分離原則の緩和や、政党条項と政党法の是認、憲法改正要件の緩和など、最低限の自民党色を滲ませている。
前文では、「国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を享有」するとしている。また、第9条では、平和主義は継承するとしながらも、戦力不保持の条項を全面的に改正し、「自衛軍」を保持するとした。その結果、自衛軍の活動の3形態として「安全保障」「国際協力」「緊急事態への参加」が明記されている。
「国民の権利」に関しては、第12条の「国民の責務」条項について、「自由及び権利には責任及び義務が伴う」とし、国民は「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務」を負うとした。
他方で、差別禁止自由において障害の有無が盛り込まれ、新たな人権として「プライバシー権」「国民の知る権利」「環境権」「犯罪被害者の権利」「知的財産権」を盛り込んでいる。また、政教分離原則を緩和し、「社会的儀礼」の範囲内にある場合を除外している。
統治機構において目立った改正権としては、政党法の制定を予定するほか、裁判所として「軍事裁判所」を設置するとしている。また、地方自治においては、「住民参加」を基本に条文構成を改めている。
憲法改正に関しては、国会の発議要件を現行3分の2から過半数としており、憲法改正を容易にしたいとの意図が明白である。
総じて言えば、これまでの主張に比べてやや抑制的であるが、改憲論議自体が流動的であるので、今後の帰趨に注目する必要がある。また、主権在民原則の下では、改憲もまた国民が主役でなければならない。この点からすると、多くの国民が共感できる視点や内容が乏しいというべきであろう。
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