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2007.07.27
部会・研究会活動 < 憲法問題プロジェクト>
 
憲法問題プロジェクト
2007年4月14日
国民投票法案の概要と問題点

田代 正彦(法政大学大学院法学研究科博士後期課程)


はじめに

 2006年5月に「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(与党原案)と「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(以下「民主党原案」)が提出されたが、会期終了により、閉会中審査となった。2007年1月召集の166回国会で審議が行われ、3月27日に与党が併合修正案を提出し、これに対抗する形で民主党修正案が4月10日に提出された。

(1)与野党原案と修正案

 国民投票の対象 憲法上、憲法改正の際には国民投票を経るべきことが規定されているが、それ以外も、国政レベルの政策決定において国民投票制度を採用することが憲法上認められるかという問題がある。しかし、諮問的・助言的な国民投票であれば、一般的国民投票は認められるというのが多数説である。民主党はこの説に立脚し、国政における重要な問題に係る案件についても、国民投票の対象とする規定を盛り込んだ。但し、与党併合修正案は附則において検討を行っていくこととしている。

 投票権者の範囲 投票者年齢については、2006年末に与野党で「18歳以上」とすることで合意が成立している。ただし、与党修正案では、公職選挙法や民法の改正を経るまでは、当面「満20歳以上」としている。

 投票用紙への記載方法及び「過半数」の意義 投票用紙の形式や、「過半数」をどのように定めるかについては、両修正案では既に一致している。すなわち、「賛成」「反対」の文字に、○印か×印を記入するという方式であり、また、過半数は、無効投票を差し引いた投票総数のそれとしている。

 公務員等の規制 公務員等の国民投票運動に関する規制についていえば、地位利用による運動に関して両修正案は、、禁止規定は置くものの、罰則を設けないことで一致している。特定公務員の禁止については、選管職員にとどめられている。なお、公務員の政治行為の制限については、民主党修正案では適用除外とされているが、与党修正案では原則適用とし、附則にて、公務員法の改正を視野に置いている。

 その他、組織多数人買収罪の創設、国民投票広報協議会の設置についても同一の規定となっている。

 なお、メディアの規制については、改正案に対する政党の立場を放送するにあたり、議席按分ではなく、賛否平等の割り当てとされている。なお、有料広告の禁止期間については、与党修正案では期日前14日間とされ、民主党修正案では発議以降投票日まで禁止することとしている。

 以上のとおり、両修正案の対立点は、幾つかあるものの、極めて少ない。というのも、2007年年頭に安倍総理が参院選で憲法改正を争点とする旨発言するまでは、与野党が協力する形で審議を行っていたためであり、ここで指摘した相違は、当該発言以降協調路線から独自路線へと転換した結果、大きな対立点の存在しない対案を出さざるを得なかったためである。

(2)残された問題点

 報告の前日に、衆議院憲法調査会特別委員会で、与党併合修正案が可決された。しかし、それまでの審議で触れられていない論点を指摘しておく。

 第一に、国民投票制度の二段階論である。すなわち、憲法改正の際に、国民からの発案(イニシアティブ)をどう組み込むかという点である。イニシアティブは、国民世論に合致した憲法改正が行われ易く、また、議会の発議した改正案が否決される危険性を低く抑えるという点で、利点がある。

 第二に、憲法改正案を審議する形態として、両院合同審査会を活用するかどうか、である。すなわち、発議の際に、可能な限り両院一致して成立させるという趣旨からも、両院合同審査会の方式を採用することが重要である。

 さらに、最低投票率制度をどうするかという問題である。この仕組みがなければ、有効投票の過半数が得られさえすれば、僅か百票でも一万票でも改正が成立することとなるため、それでよいのか、という問題がある。

 最後に、インターネット上の規制についても、検討する必要がある。特に、先の都知事選では、動画サイトにおいて一部候補者の政見放送がアップされ、平等配分規制が無意味なものとなってしまう。困難な課題ではあるが、徹底的に議論する必要があろう。

(文責:李嘉永)