部落解放教育論における課題領域で、本来は対立するはずのないことが、対立的に捉えられてしまっているような現象が生じていることがある。例えば、「解放の学力」論における「政治主義」と「技術主義」。
「授業改革」における「授業形態論」と「テスト得点論」。「総合学習」における「子どもの要求先取り」と「子どもの放任」。「参加型学習」における「否定論」と「万能論」などがそれにあたる。これは、全て「学習論」の問題である。従来の「知識伝達型の学習論」の枠組みで考える以上矛盾は解決しない。これらの断層や矛盾を溶くためには、学習論・認知理論の角度からの整理が必要である。
報告者が学んだのは、パウロ・フレイレ、ジーン・レイブ、金子郁容、ジュディス・ハーマン、ギブソンなどである。ヴィゴツキーの理論も現在再び注目されてきており、興味深い。これらの理論については、佐藤学氏の「学びの対話的実践へ」をはじめ数々の著書が出されているので、是非一読をおすすめする。
部落解放教育との関連で言えば、まず学習論の観点に立った集団形成の充実ということがある。これまでともすれば「集団の団結」ということと「人間関係づくりの重視」ということが対立に捉えられることもあったが、学習論の観点の重視で、授業で集団を活かすことができるのではないか。一斉授業のみに頼ることの限界はいうまでもないことである。
また佐藤学氏の「学びの共同体」とは全く対立するものではないのだが、「実践の共同体」と言うことが重要なのではないか。この実践というのは、学びの前提としてのものであり、それを土台に据えた授業論(探究活動組織論)の展開が必要とされる。
このほかにも、生活を綴り語る意味の再整理など、学習論を踏まえて整理すべき課題はいくつかあげられる。
人権教育の枠組みで考えてもそうである。「同和教育」の今後に関わっての人権教育を捉えていく際に、学習論や認知論からアプローチすることで、今後を展望できる課題の整理が可能になるのではないか。