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大阪における解放教育のあり方研究会・学習会報告
1999年07月17日
学力保障の解放教育論

(報告)鍋島祥郎(大阪市立大学)


 学力保障という言葉自体は、教育の「結果の平等論」をめざすことを念頭に置いている。憲法第26条や、教育基本法第.3条などで言われるのは、教育の「機会の平等」である。「結果の平等」は、アメリカにおいては重要な論点として取り上げられており、1954年のブラウン判決では、人種分離教育を違憲と判断し、「結果の平等論」を教育平等の原則として導入することに道を拓いた。そしてこの考え方は、今日、アメリカを始めとする文化多元社会の原則となりつつある。

 解放教育では、この「結果の平等論」を原則にしつつも、実質論としては不十分であったのではないか。例えば、「抽出促進」や「補習」等の指導に対して、「能力主義教育」「差別・選別教育」であるとの批判が根強くあり続けた。その結果、個々の学力の問題に対して具体的にどのような方法で対処するのかという点で、それを深めるための理念も、実践的蓄積や発展も少なくなることとなってしまったのである。

 また一方で昨今人権教育や総合学習が各所で言われ実践されているが、それが、結果として学力保障をあいまいなものにすることにつながるのではという危惧を抱いている。勿論、人権教育や総合学習を否定するものではないが、それらは、学力保障の上に成り立たねば砂上の楼閣である。学力保障は解放教育の一部であるという言い方はこれまでにもされてきたが、敢えて学力保障こそが解放教育であると言いたい。

 しかし、先に述べたように政治的レベルでは個別化が否定されていたにも係わらず、各地の学校や教員個人の実践においては、個に応じた学力保障実践が多く存在した。これは教員という職業がもたらす倫理観の中に、個に応じた学力保障の理念が含まれていることを示唆するものである。

この10年ほどの間に大阪の同和教育推進校では、個に対する学力保障の観点からの授業改革はかなり進んできた。かつての解放教育の先鋭的な主張と比べれば地味にも見えるまじめな教員の努力、授業改革や学校改革に光をあてることこそ、解放教育運動は今すべきではないのか。

 学校はみんな一緒に同じやり方で、というフロー型教育実践から、幅広い情報収集のもとに、個々に応じて多くのオプションを持つ、ストック型の教育実践への転換を図らねばならないだろう。そして、建物を改良するというだけの意味ではないオープンスクール的発想を持つことが大切だ。学校教員のみが子どもに対して指導するというのは文化的な意味であまりにも貧弱である。また、学校づくりそのものに組織論としてのティームティーチングの発想をもつこと、例えば同担制度などはその良い例である。

 学校外における学力保障施策は重要である。子育て支援は、機能補完型活動から自立支援型活動に転換せねばならない。そして学校に依存しない、地域住民の手による自主的な、知的地域文化創造をめざす。具体的には「地域教育リソースセンター」等のNPOを設立して子ども・保護者・地域住民の教育参加をオーガナイズする地域活動の支援等、地域サポート型の解放教育運動の展開がのぞまれる。

(N.T)