調査研究

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2003.07.10
部会・研究会活動 <地域教育システムの構築に関する調査研究事業>

    「豊中市立泉丘小学校内にある公民分館サークル活動
 −ボランティアサークルの取り組みから−」

大橋保明

 本論文は、部落解放・人権研究所/成人教育部会より発行された報告書『自己実現・社会参加への誘導要因−効果的な成人教育の企画・運営のためのケーススタディ−』に収められているものである。

豊中市立泉丘公民分館の取り組みについては、当サイト「地域リポート」のコーナーですでに紹介されているが、3000人の地域住民が集う「ワッショイ文化祭」や地域住民が手作りで祝う成人式「若人の集い」等のユニークな活動で知られているところである。本論文は、その泉丘公民分館の進める「学校と地域との協働」を成人教育・成人学習の視点から論じたものとして興味深いものとなっている。

 以下、要旨を記すことで本論文の紹介に替えさせていただく。

1)豊中市の公民分館活動

 豊中市では、公民館活動を浸透させるため、各小学校区に1分館を目標にして市内41ある小学校区に現在40公民分館が設置されている。その運営・組織体制等の詳細は、本論文を参照していただくとして、豊中における公民分館活動の特筆すべき点は、その「活動の拠点が、学校教育に支障をきたさない範囲で小学校の余裕教室に置かれている」点であり、そのことによって「小学校や子どもたちとの関係性創出のための物理的な条件が整っている」ことである。 

とりわけ、本論文で紹介されている泉丘公民分館は、この恵まれた条件を最大限に有効に活用して、多彩な諸活動を展開しており、その取り組みは、まさに注目に値すると言えよう。

2)泉丘ボランティアサークル

 泉丘公民分館の活動の中軸を担っているのは、現在137名のメンバーで構成されている泉丘ボランティアサークル(泉丘VC)である。阪神大震災の経験をきっかけに地域で発足した泉丘VCは、一部の住民の要求ではなく、「地域全体の要求によって組織された公民分館主導のサークルとして誕生して」おり、その活動内容は、月に1回のコーディネーター会議によって決められている。できる限り多くのメンバーの声を活動に反映させるための工夫であるという。

泉丘VCの活動で感心させられるのは、各種の多彩な活動が、平日の午後、毎日途切れることなく続けられている点である。そして、「ゆうゆうサロン」(小学校敷地内にある公民分館の愛称)には、VCのメンバーとともに教師や子どもたちが毎日訪れ、まさに新たな「つながり」を生成する「場」として機能しているのである。成人教育の学習活動として貴重な事例と言えまいか。

 

3)新たな「つながり」生成の「場」として

「ゆうゆうサロン」で、毎週おこなわれる工作教室や、子どもたちとの関わりの直接の契機となったPTA参観時の「保育活動」等々、泉丘VCの多彩な活動を通じて、多くの大人たちと教師、親、子どもたちが出会い、新たな「つながり」が生まれていった。そして、それらの「つながり」は、「手話の学習」や「ボランティア体験授業」等の経験を通じて、泉丘VCが学校の授業へ直接的に参加・協力する取り組みへと発展していったのである。

なかでも、VCの大人たちと地元中学生が協働で取り組んだ「泉丘バリアフリーマップ」づくりは、地域をフィールドにして展開される総合学習のひとつの到達点を示すものと言えよう。そこでの学習を通じての子どもたちの成長は言うまでもないが、子どもたちと一緒に活動することによって、大人たち自身の取り組みが活性化され、より充実したものとして展開されることを可能にした点に、ここでは注目しておきたい。

 

4)おわりに

大人の学習や活動が他者(ここでは「子どもたち」)との直接的な関わりによって促進されているということ。異なる視点、異なる発想を持つ者どうしが関わり合うプロセスの中で、新たな意味付けがなされていること。さらに、大人の学習や活動が、他者との「つながり」によって、日常的に生成されていること。その日常的に維持される緩やかなつながりの構築によって、あらゆる学習活動のチャンスが生まれていること。

泉丘公民分館・VCの活動事例にかかわって、報告書のテーマの「自己実現・社会参加への誘導要因」という観点から、筆者は以上のように整理をおこなっている。「学校と地域の協働」の取り組みを地域の側・成人教育の立場から捉えなおすための大切な指摘と言えるだろう。

本論文では、その他に、公民分館として開催した「ホームヘルパー養成講座」や、VCをきっかけに生まれた「読み聞かせサークル」の取り組み等、さらには、1年間の活動の概要等、詳しい資料とともに興味深い活動を紹介している。ぜひご一読いただきたい。