調査研究

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部会・研究会活動 <地域教育システムの構築に関する調査研究事業>
 
教育コミュニティ研究会・学習会報告
2000年2月29日

「国際比較調査からみた日本の家庭・子ども」

(報告)池田寛(大阪大学教員)

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 日本の家庭、子どもの現状を国際比較調査からつかむ。国際比較の結果でみると、日本は相対的に家庭生活への満足度は高くないことがわかる。最も満足度が高いのが、タイの80.3%であるが日本は45.1%になっている。

 親子のふれあう時間をみると、アメリカの親の方が子どもと接触する時間が多い。では、どういう様な点で日本は少ないのか。親子の共同行動の内容を10歳から15歳までの子どもの親あるいは子どもにきいた結果をみると、アメリカの場合は、勉強、本を読む、散歩、公園で遊ぶなどの項目で、すべて日本よりかなり高くなっている。一緒に家事をするなどは、日本の約4倍近くである。日本と韓国はよく似た数字を示しているが、相対的に日本の方が低い。ここからアメリカの親子のほうが多様な活動をしていることが見える。またアメリカと比較して、朝食は、日本の方が一緒にとっている割合が高い。ところが夕食は、父親と一緒にとっている割合が少ない。アメリカは母親が働いている割合が高い。それで、父親が一緒に夕食をとることも多くなっていると考えられる。また、一緒に趣味をする割合が「週に1回以上」は、日本が15%ほどに対し、アメリカは45%と高い。

 日本の親子はコミュニケーションが少なくなっていることもわかる。また社会的な場面に子どもを連れ出すことをしていない。地域の催しにも参加せず、社会性を身につけさせる意図的な努力を日本の親はしていないと言えるだろう。歴史的に見ると、かつて日本では、人が集まって楽しんで協力する場面が地域社会ではいくらでもあったので、日本では、親が努力しないでもすぐそばに「社会」があったといえる。しかし、現在はこうした社会的な仕掛けが少なくなった。今は親や地域が意識的にしないといけない状況にあるのに、その転換が図られていない。アメリカは昔から外にすぐ社会がないので、親が意識的に子どもを連れ出してきたと思う。深読みしすぎかもしれないが、私はそう考える。

 地域社会への永住意識は、11カ国の調査国の中で最低である。フィリピンが最高で72.2%であるのに対し、日本は29.1%である。また社会に対して不満があるとき、「合法的範囲で積極的行動」をとる割合が、日本は20.7%と11カ国中の10位である。最低のロシアの場合(11.3%)は政治体制が不安定なのでわかるが、日本はなぜ積極的関わりを持たないのか。その質問の結果をみると、個人の力で及ばないとあきらめている割合が一番高い。自己効力感の低さである。小さい頃から貢献を認められる心地よさを経験してないのだろう。

 最後の1996年・日本青少年研究所の「ポケベル等通信媒体調査」の結果にも驚く。逸脱行動について、例えば「先生や親に反抗することは本人の勝手」と答えたのが日本の高校生は8割以上。アメリカ、中国は2割を切っている。日本の子どもの規範意識は非常に低下した。教育的に考えると危機的な状況だ。日本の子どもは身近な大人から何かを学んだり、大人っていいなという体験をしてこなかった。子どもが「大人を見る目」というのをこれからは重要視せねばならない。日常生活でも教師や親以外の大人と出会うのは、テレビをとおして悪いものとして入ってくる。「コミュニティー研究会」として、もう一度、大人と子どもの関係を考える材料として考えていきたい。

<参考資料>

* 「日米高校生比較調査」財団法人日本青少年研究所・財団法人日本青少年厚生福祉センター編(1978年5月調査、1979年1月発行)
* 「日本の父親と子ども」―子どもと父親に関する国際比較調査―総務庁青少年対策本部編(1986年10月28日〜12月22日調査、1987年12月発行)
* 「中学生の母親」―青少年の校外活動と家庭に関する国際比較調査報告書―総務庁青少年対策本部編(1990年11月14日〜28日調査、1991年発行)
* 「世界の青年との比較からみた日本の青年」―第5回世界青年意識調査報告書―総務庁青少年対策本部編(1993年2月〜6月調査者による個別面接調査、1993年12月)
* 「子どもと家庭に関する国際比較調査報告書」総務庁青少年対策本部編(日本については1994年11月17日〜12月11日調査、1998年12月発行)

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「学校支援ボランティアの導入とそれを巡る問題点」

(報告)柏木智子(大阪大学院生)

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 近年、学校、家庭、地域の協働の一つの形態として、社会人や地域人材の学校への活用や学校支援ボランティア活動が推進されている。学校支援ボランティアの導入は、学校を開かれたものとし、学校と家庭、地域の協働の可能性を示唆するものである。また、外部からのサポートは、学校における教育的な営みを充実させ、豊かなものにすると考えられる。ただ現在の段階では、学校支援ボランティアはいまだ新しい試みであり、その現状や課題は殆ど把握されていない。

 報告者は、地域の人が学校支援ボランティアとして、土曜日・午前中のクラブ活動の指導を行っている公立のA小学校を事例にとりあげ、学校支援ボランティア活動に関わりを持った地域の人にインタビュー及びアンケート調査を実施した。時期は1999年10月〜11月にかけて、対象者は1999年5月〜10月の間にクラブ活動の指導を行った学校支援ボランティア49名に対する全数調査である。アンケート回収率は83.7%で、インタビュー人数はアンケート回収者のうち、インタビューに応じることを了承した21名である。調査内容は、主に、「学校支援ボランティア活動」「学校との関わり」「児童との関わり」の3点に焦点を当てた。

 結果を踏まえて言えることは、クラブ活動という限定された範囲ではあるが、学校支援ボランティア導入が、地域の人にとって、また地域と学校との関係にとって有意義であることが意識面ではっきりと現れている。しかしその反面、ボランティアの人への目的意識的な研修の必要性や学校とボランティアの人の意志疎通の円滑化、子どもの声の反映等々、新たに生じている課題も多い。

 学校と家庭・地域が真に協働し、教育活動を行うためには、ある特定の活動についてだけでなく、学校経営全般への保護者や地域住民の参加を保障する組織の制度化が欠かせないだろう。同時に、学校・家庭・地域が本当に共働して教育活動を行うためには、地域住民に対する学校の情報公開も今後必要となってくるであろう。また、学校と地域の仲立ちをする第三者的組織も有効であり必要であると思われる。A小学校の場合はそれがD協議会であり、ハード面も含めて学校支援ボランティアが活動するための拠り所となっていた。学校と家庭・地域が共働する活動の場合、その間に立ってコーディネーター役を果たし、活動をする上での事務的な仕事をも手伝えるような組織や人物そしてハード面が必要であると思われる。

 総じて、効果的な教育活動を行う為には、共働の為の地域教育システムの構築が求められているといえる。(N.T)