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部会・研究会活動 <地域教育システムの構築に関する調査研究事業>
 
教育コミュニティ研究会・学習会報告
2001年2月16日

「地域に開かれた学校と人権教育」

(報告)滝澤 公子さん(松原市立布忍小学校)

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 きょうは、大阪の松原第三中学校校区の取り組みを、布忍小学校の地域と結んだ人権教育を中心にお話ししたいと思います。
 松原市の中学校校区は、全部で7つあります。そして、この数年いろんな形で学校と地域が協力してフェスティバルを行っています。松原第三中学校でも秋に「ヒューマンタウンフェスティバル」という名前で祭りを行い、今年で5回目になります。

 第三中学校校区には、中央小学校・布忍小学校と第三中学校があります。この三校は10年以上も前から小中交流と言うことで、いろいろな取り組みを進める中で子ども間・教師間のネットワークを作ってきました。
一つ目は、授業のネットワークです。三校があつまっての合同授業研究会を年に三回テーマを決めて行います。今年は総合学習をテーマに、1学期第三中学校、2学期中央小学校、3学期布忍小学校で授業研が行われました。授業参観後交流会を持ち、各校の取り組みの交流をしたり、大学教授を招いて授業の講評と講演をしていただいたりしています。

 小学校の先生にとっては、中学校へいって子どもがどのような様子なのかを直接知る貴重な場であり、中学校の先生にとっても小学校の授業を見ることはとても新鮮で、中学校での学習のやり方を考える場になっているようです。

 二つ目は、子ども同士のネットワークということです。小学校の6年生は、「もうすぐ中学生だ」と言うことで、大きな期待と同時に一方で「中学生活の中で、勉強はむずかしいだろうな、先輩はこわいだろうな」といった大きな不安を持っています。そこで、中学生と共に中学校の科目を授業体験する取り組みを行っています。「ジョイントレッスン」 とよんでいます。

 また、中学生活で大きな部分を占めるクラブ活動への期待に応えるクラブ体験入部をして、中学校の先輩や先生に直接ふれあえる場をもっています。この様な取り組みを通じて小学校6年生の子どもたちは、第三中学校を身近な存在として感じ、安心して中学へ進学できるようになりました。

 最近では中央小学校と布忍小学校の間で、パソコンを使ったテレビ会議を持ったり、第2,4土曜日にいっしょにスポーツをしたりして、交流するようになってきました。楽しい取り組みの中で中学校校区をイメージづけていくことはとても大切だと感じます。そしてこれらのネットワークが、「地域教育協議会」の取り組みへと発展してきました。

 「地域教育協議会」は、中学校区の学校・PTAの方・町会・婦人会などが集まった組織ですが、今年度立ち上げられ、中学校区のお祭りヒューマンタウンフェスティバルやニュースポーツフェスティバルを中心となって担っています。

 特に「ヒューマンタウンフェスティバル」では、地域から3500名の参加を得て、盛り上がりました。

 今年、第1回目のニュースポーツフェスティバルは、会場が第三中学校で中央小学校・布忍小学校の児童の参加で行いました。インディアカ、ティーボールなどのニュースポーツを地域の方々の指導で行い、参加した子どもたちにも大評判で「来年もまたやりたいな。」という声も多く出ました。

 次に、これらの地域に開かれた取り組みのきっかけになった、学校の地域と結んだ総合学習について述べたいと思います。第三中学校の総合学習の総称は、「ドリーム・ワークス」、選択履修の取り組みは「クリエイティブ・タイム」とよんでいます。中央小学校の総合学習は、年々系統的になり総称をつけていこうという流れになっています。そして布忍小学校の総合学習は「ぬのしょう、タウン・ワークス」という名前で取り組みを進めています。

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 今日は、布忍小学校の人権総合学習「ぬのしょう、タウン・ワークス」を中心にお話したいと思います。
布忍小学校では、今から6年前、従来ずっと取り組まれてきた人権学習のやり方や内容を見直し「タウン・ワークス」と名付けました。

 タウンというのは街、ワークスは出かけていって体験し、調べていく中で色々な出会いをし、子どもたちが気付いていく学習と言う意味でつけられたものです。

 人権を大切にする豊かな心、自分と地域を誇りに思う心、世界を広く理解し行動する力、未来に向かって夢を持つ創造力、情報を活用し、発信する力などをつけていく総合学習でありたいと思っています。
布忍小学校の「タウン・ワークス」では、1年生から6年生まで年間のテーマを決め取り組んでいます。

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 1年生は、「目指せ、遊びの達人」ということで、年間を通じて色々な遊びを覚えて行く中で友達の輪を広げたり、いろんな大人と出会ったりします。遊びを取り組むことを通して「学校って友達がいて楽しい所だなあ、友達ってやさしいなあ」ということを実感する事を大切にしています。保護者に学校に来てもらい、かかし・びーだん・大縄・竹とんぼなど、保護者の方が子どもであった頃の遊びを子どもたちに教えてもらったり、学校の空き教室を利用して作られている老人センターでお年寄りから、あやとり・将棋・輪投げ・折り紙・こま回しなどの昔の遊びを教えてもらったりしています。

 日頃は、忙しくてなかなか子どもに関われないお母さんやお父さんも多いのですが、遊びを通して子どもとコミュニケーションをとれたとお家の方にも好評でした。

 また、最近はおじいちゃん、おばあちゃんと同居している家が少ないので、高齢者の方から遊びを教えてもらったときに1年生から「おじいちゃんって優しいな」「またいっしょにあそびたいです」等の感想が出て、来てくださった高齢者の方々もうれしそうでした。

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 2年生は、「良さをみつけよう、自分と校区」ということで取り組んでいます。友達の良いところ、頑張っているところについてお手紙で出し合い、友達が自分の良い所をこんなに分かってくれている・お家の人はこんなに分かってくれていると感じられ、自分自身をもっと好きになろうという学習をしています。

 今年もお家の方との手紙のやりとりでお母さんからのこころのこもったお手紙に思わず涙する子どもの姿がありました。

 また、校区探検によって、校区にいる色々な人たちと出会いその優しさに触れる機会を作っています。自分たちのグループで話し合って決めた場所を、子どもたちだけで地図を片手に回ります。お店やさんや、消防署等いろんな場所へいきますが、帰ってきたときには、大人もびっくりするような校区の秘密を発見してきます。

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 3年生では、「出会い、ぬくもり」と言うテーマで障害者福祉や、高齢者福祉に触れる取り組みをします。

 障害者福祉では、車椅子体験や、アイマスク体験など、疑似体験をします。「障害を持っている人は大変だ」「かわいそうだ」と言う意見が次々に出ますが、実際に障害と向き合って頑張っている人に出会うと、子どもたちの考えは、大きく変わります。

 松原市内に在住のFさんは、車椅子で生活をする傍ら市内に落ちている空き缶を拾い集めたお金で、老人ホームに車椅子を送りました。たった一人で広い街をきれいにし、人のために尽くしているFさんに出会い、子どもたちもFさんといっしょに街を掃除したいと言い出しました。それで、3年生みんなで校区を流れている西除川のほとりをそうじしました。みんなで掃除してもなかなかきれいにならない通りを掃除しながら、毎日一人でやっているFさんのすごさを子どもたちは実感しました。

 また、高校生の頃事故で車椅子の生活をするようになり、自分にとっての生き甲斐を車椅子ダンスに見いだし、現在幅広く講演やダンスなどの活動をされているSさんとも交流しました。交流の後、子どもたちからは、Sさんのように優しく、がんばれる人になりたいという感想が次々出されました。高齢者福祉の取り組みでは、特別養護老人ホーム・老人センター・デイサービスセンターなどへ訪問し、歌を歌ったり、挨拶をするなどして交流しました。おじいちゃんがお礼にと得意のハーモニカを聞かせてくれたり、昔の歌をプレゼントしたりしてくれました。中には、自分の昔を思い出して泣き出してしまうおばあちゃんも居て、別れ際に握手したとき子どもたちも目を潤ませていました。

 FさんやSさん、おじいちゃんやおばあちゃんとの出会いの中で、子どもたちは温かい気持ちを感じ、自分たちに出来ることはどんなことかを考えるきっかけになりました。

また、自分の周りの友達や、自分のおじいちゃんやおばあちゃんにも以前より思いやりを持って接してくれるようになったようです。

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 4年生では、仕事、労働を年間テーマにしています。4年生にアンケートを採ってみると、自分の親の仕事を知っている子どもは半分もいないと言うことが分かりました。まず、仕事そのものに興味を持ってもらうため、校区にある様々な仕事の場へへ見学に行きました。校区には真ん中に商店街が通っているので仕事場は豊富にあります。

 子どもたちが自分で見つけて、見学させて下さいとお願いに行きます。もちろん仕事中なので、断られる場合もあります。しかし、ていねいに挨拶をし、次の仕事場へ依頼に行きます。

 子どもたちが見つけた仕事場(喫茶店・お菓子屋さん・お肉やさん・クリーニングやさん、電気屋さん、米屋さん、うどんやさん、風呂屋さんなど・・・・)全部で50カ所程度を手分けして自分の見たい仕事場へ訪問します。始めは、興味津々で見学していますが、そのうち、仕事の大変さも分かってくるようです。すると次は見るだけでなく、どれだけ大変かやってみたいなあと言うのがこどもの正直な気持ちです。

 そこで2学期には、見学させてもらった所へ行って、仕事体験させてもらっています。喫茶店のナフキンたたみ・お菓子屋さんの陳列・うどんやさんの手打ち体験・風呂屋さんの風呂洗いなどです。実際は仕事場のじゃまになる事も多いのですが、子どもたちの学習のためならと引き受けて下さるお店が多いです。また毎年の取り組みなので、お店やさんも覚悟してくれているようです。

 子どもたちは、仕事の大変さもさることながら、やり方を教えてくれたり、時にはほめてもらったりとお店の人の優しさに触れて大満足で帰ってきます。お礼に子どもたちの手作りカレンダーをお世話になったお店に持っていきました。そのカレンダーをお店に飾ってくれているお店も多く、買い物に行ったときに目に留まる場所にはって下さっています。

 子どもたちが仕事場で一番感動するのは、働いている人がみんな真剣で、とてもやりがいを持っている姿です。自分の親がどこでどんな風に働いているのかよく知らない子どもたちが多い中で、仕事の現場そのものに触れていくことは本当に大事だなと感じます。

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5年生は、「自分史・共生」をテーマにしています。自分史とは、11年間の自分の歩みを振り返る取り組みで、共生とは、世界の色々な国々の人や生き方や文化に触れる取り組みです。

 今年は、10数カ国の方に学校にきて頂き、聞き取りを行いました。中国、コンゴ共和国、チリ、朝鮮、アメリカ、フィリピンなどから日本へ来られた方々です。始めは、恥ずかしがってなかなか意見も出せなかった子どもたちですが、聞き取りの最後は、質問や、一度中国に行きたい等の感想がどんどんでてきました。ハワイの日系三世の方といっしょにフラダンスを踊る場面では、大いにのって踊っていました。

 日本に留学したり、日本で生活している外国の方々はしっかりした目的を持って日本に来られています。全く違う文化・生活の中でとまどいながら、なやみながらも自分の目的のために頑張っていらっしゃる方々からの話は、迫力があり、日本の中でどう外国の方と接していけばいいのか、自分がどう生きていくのかさえ問われます。

 そして、この学習をきっかけに次は、自分史の学習へ入っていきます。

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6年生のテーマはヒロシマ修学旅行から進路学習です。1年間を通して出会いの中で自分の将来への夢、中学生活への目標を考えます。

1学期のヒロシマ修学旅行の取り組みは、6年間の小学生活のまとめとして仲間と広島へ行く意味、平和の大切さを自分たちがどう行動にしていけるかを大切にしています。また、2学期の進路学習では、将来どんな仕事をしたいかを調査し、実際なりたい仕事の仕事場へフィールドワークに行きます。野球選手・調理師・看護婦さん・海外への協力隊・ケースワーカー・教師・幼稚園の先生・アナウンサーなど子どもたちは将来に向けて様々な夢を膨らませています。

 今年も30カ所の仕事場へ訪問させてもらい、本当に仕事を生き生きされているみなさんと出会うことが出来ました。子どもたちもそんな夢を持った大人に出会う中で、改めて自分の目標を考え、励まされました。そして、また夢を実現するのは、難しいと言うことも、言っていただきました。
このように6年間で、様々な人との出会い・自分自身で何がしたいか選択すること・子どもが自分から気付くことを大切に総合学習をすすめています。

 実際にこういうカリキュラムで学習を進める中で、私たち教師から見ても子どもたちが自分から主体的に学ぼうとしたり、自分たちで決めて行動したりする力が付いているのを実感します。ただ、保護者の方は、総合学習って何なのか、どんなことをしているのかが分かりません。そこで総合学習で学校ではこんな事をしていますと言うことを、保護者に知ってもらう機会を持ちました。

 まず、親子集会という場で総合学習の発表・交流を、お家の方や地域の方を招いてしています。子どもたちが学習してこんな感想を持ったと言う発表をしたり、学習中の子どもたちの様子をビデオで知らせたり、親子でその場で体験する場を作ったり、色々な工夫をこらして学期に1回持っています。親子集会には平均8割から9割の保護者が参加してくれています。

 また、子どもたちの総合学習のお助け隊として、聞き取りに参加してもらったり、たくさんあるフィールドワークの引率を引き受けて頂くなど主体的に動いていただく「ぬのしょうふれあいサポーター」は、地域の人材として年々数が増えています。

 そして、保護者が学校で総合的な体験学習の授業を受ける、地域保護者体験授業を年一回持ち、地域の方に講師をお願いして、授業を行っています。これは、第三中学校でも行っている取り組みです。

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 「タウン・ワークス」を通じて沢山の保護者や地域の方と学校とのつながりが生まれてきているのですが、今年は「キッズマート」という布小にとって初めての取り組みをしました。これは、地元商店街で五年生の児童が、お店を出して商売をするというものです。

バザーと違うところは、商品を仕入れ、売値をつけることから、宣伝、販売、会計を全て子どもがやり、本当に商売体験すると言うところです。もちろん、仕入れの仕方・売り値の付け方なども勉強します。

 商品は、大阪商工会議所や地元の企業、各町会から頂いて教師が仕入先となって子どもに売るんです。子どもたちは、四〜五名のグループで店長さん・宣伝部長さん・仕入れ担当・会計担当など役割を作りお店を起こします。

 子どもたちは、自分のおみせの名前が書いてある看板を作り、当日をわくわくして待っていました。お客さん来てくれるかなあ・・と言いながら、前日、商店街や、校区の色々なところで雨に濡れながらビラまきをしました。

 幸い当日は、天気も晴れ、1200人ほどのお客さんが集まりました。声をだすのを恥ずかしがっていた子どもが、大勢のお客さんを前に必死で呼び込みをしています。ねだんを下げるかどうかを店員で相談したり、中には値切る大人のお客に仕入れ値をわって売ることはできませんと行って押し問答になる店もありました。最後は、ずいぶん安売りし、店の商品を完売した店が次々出ました。

 これは、学校だけでなく学校、PTA、地元商店街、町会、婦人会、等が一体となった取り組みでした。

 商品提供を頼んだとき地域のいろんな所から、商品が次々トラックで運ばれてくる様子や、(中には、卒業して30年も経った方が、町会の掲示板でポスターを見て商品を持ってきてくださり、感動しました。)当日のすごい熱気と人だかりを目の前にして、本当に地域にはパワーがある、そして子どものためやったらやったらなという、地域の方の学校に対する思いを強く感じたキッズマートでした。

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最後に、これらの総合学習を発信していく情報教育について述べます。

 本校では、97年度2学期にパソコンが導入されました。その年、職員の手作業で職員室・特別教室・パソコン室をネットワークでつなぎ、ホームページを97年度中に立ち上げました。

 人権総合学習「ぬのしょう、タウン・ワークス」と情報教育を結んで、取り組みを進める出発を切ったのがこの年です。

 98年度は、先進的教育用ネットワークモデル地域事業のモデル校指定を受け、本校内に地域ネットワークセンターが設置されました。最新のネットワーク環境を活用し、これまでの取り組みに加えて交流・共同学習をより推進してきました。現在、市内の小学校や県外の小学校とも、交流学習しています。
今後も更に子どもたちにとって豊かな出会いのある総合学習を進めたいと思っています。

詳しくはこちらをご覧下さい。

第15回人権啓発研究集会(2001年2月16日)より