2000年度の一年間、下記のような問題意識で松原市立第2・3・5・7中学校区に調査に入った結果が『協働の教育による学校=地域の再生』としてまとめられた。
――家庭や地域との協働は、学校が成り立つための必然的要件であり、協働が行われなかったり、その必要性を考慮してこなかったこれまでの学校教育、そして学校と家庭・地域の関係こそが、異常な状態にあったと考えるべきではないのか。これが、われわれが調査を行うに当たっての基本的な立場である。
協働によって、学校や学習のあり方がどのようにちがった見え方をするだろうか、また、それによって学校改革にどのような展望が見えてくるだろうか。学校と家庭・地域の協働を進めつつある校区に焦点を当て、それが具体的にどのようにすすめられているか、そして、さまざまな協働の取り組みを通じて、教師や保護者や地域の人々の意識はどのように変わってきたか、さらに、子どもと大人の関係にどのような変化がみられるのかを、具体的に明らかにしようと思う。―――
そこから見えてきたことを報告いただいた池田寛(大阪大学)より、松原における「協働の教育」の始まりとして、(1)学校5日制委員会での議論、取組み、マイスクール事業、校区フェスタといった松原市の独自の積上げが契機となっていること、(2)「地域と結びつくこと」に対する教員の側の意識の変化が生じていること、(3)「ボランティアクラブ」や「やったろう会」のように「学校応援団」が登場してきていること、(4)学校と地域をつないでいくキーパーソンが存在していること、(5)教育(校区)コミュニティ意識が生まれてきていること、(6)不登校や「荒れ」の克服にみられるように「子どもが変わってきている」こと(特に中学校で)が見られる、という指摘がされた。
そして、学校と地域の「協働」を進めていく課題として、(1)地域に根ざした総合学習を通じた日常化・継続化、(2)貝塚北小学校の「ふれあいルーム」のような学校内に生涯学習ルームを設置すること、(3)すそ野を広げるための広報活動の強化、(4)子ども、特に中学生の出番をもっと工夫する必要がある事、(5)就学前時からの親のネットワークを組織していく必要性、(6)課題を抱えた家庭や子どもへの独自の支援方法の強化、(7)大人の「生き方から学ぶ」方法の発展、などがふれられた。
こうした取組みを通して、「学び」の重要な部分である、「意味づけをできる力」を育てていけるのではないかと問題提起された。
続いて、高田一宏(姫路工業大学)より、(1)同じ松原でも地域の多様性があり、それをふまえて、取組みが進められていること、(2)地縁血縁を大切にしながらもそれをこえた教育コミュニティづくりが進められているが、その際に学校が大きな役割を果たしていること、(3)継続性・日常性を考える際、教員と地域住民のそれぞれの大きな役割もあること、などが指摘された。
報告を受けた後の議論の中では、なぜ松原市ではこうした取組みが一定の効果をもたらすまで進んできているのか、特に「祭り」(フェスタ)のもつ意味・そのプロセス、教育コミュニティづくりに際して中期的に見たときの学校の果たすべき独自の役割をどう見るのか(やはり受験のための学力とは違った「知的」な力を育てていく営みではないか)、などの意見が出された。
この後、「情報提供」として、(1)長尾彰夫(大阪大学)、野口克海(園田学園女子大学)より、「新学習指導要綱」について、(2)志水宏吉(東京大学)より、本年度実施予定の大阪と関東での過去と比較するための「学力調査」の問題意識、が報告された。