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2004.03.31
部会・研究会活動 <地域教育システムの構築に関する調査研究事業>
 
教育コミュニティ研究会・学習会報告
2003年10月04日
報告「地域に開かれた学校づくり
-学校発・人権のまちづくりの基本方向(案)-

部落解放同盟 岡田健悟

「地域に開かれた学校づくり」とその背景

  今年の部落解放同盟第六十回大会で「人権のまちづくり運動推進基本方針」か確認された。これまで部落解放運動は、狭山闘争や反差別共同闘争、部落解放基本法制定要求運動、国際連帯の連動などの共同闘争を展開してきた。「人権のまちづくり」運動は、共同闘争をより生活レベルに密着した校区(行政区)において、部落も含めた地域住民にとっての切実な共通した課題の実現のためにともに汗をかき、そのなかで信頼関係を深め、差別撤廃をめさしていくという特徴をもっている。

  具体的には、校区レベルの地域福祉計画づくりやその具体化、地域に開かれた学校づくり、安心して暮らせる住環境整備など、部落と部落外の住民による「協働」と、それを通じた「新たな人間関係」=信頼関係が、確実に生まれだしている。また、行政責任は行政責任として明らかにしつつも、地域住民でないとできないことをお互い支えあいながらとりくむ「共助」の考え方や、とりくみスタイルも輪をひろげつつある。ここには、第二期運動の行政闘争の反省面である行政依存傾向の克服の展望もあると言える。

  「地域に開かれた学校づくり」は、人権・同和教育の流れのなかではいうまでもなく、他の民間ベースでも行政ベースでも、さまざまな位置づけのもとに各地ですすめられている。「地域に開かれた学校づくり」が求められている背景には、<1>地域社会のつながりの脆弱化、核家族化、少子化、<2>学校と地域の関係の変化、すなわち「社会的地位の上昇のための学校」という価値観の肥大化、学校の孤立化ということ、<3>子どもの変化として、生活体験の貧困化、大人と子どもの関係性の貧困化、社会的実在感喪失の危機など、さまざまな形で問題が表面化している、ということがある。


「地域に開かれた学校づくり」とは

  こうした子どもの状況を改善するためには、第一に、学校・保育所・幼稚園だけのとりくみではなく、「地域に開かれた学校づくり」を通じて、親(PTA)だけでなく、地域(校区)の大人がさまざまな形で子どもとかかわり、大人同士もかかわりを深め、影響を与えていくことが必要だ。その点では、親や地域にしか担えない部分があり、親が地域に果たす役割は大きい。

  しかし、これは「学校スリム化論」にみられるような機械的な学校、地域、家庭の役割分担ではなく、一つの目標に向けた「協働」を前提にしなければいけない。第二に、一部の特別な技能をもった人だけが学校にかかわるという「人材バンク的枠組み」だけでなく、多様な人が、やりたいことを、楽しみをもって学校に登場できるとりくみ・活動、空間づくりが大切だ。学校の二-ズとして、学校経営の視点をもって、地域に開く決意が必要だ。

  内容は、地域に根ざした総合学習、読書(図書)活動、学校五日制の関連での土曜日のとりくみ、クラブ活動の指導・協力、幅広い学校支援などがある。

  地域の二-ズとして、小学校はハード・ソフトの両面で地域の貴重な拠り所となる可能性をもっている。余裕教室などを使って、地域のさまざまな人・組織やサークル活動、NP0などの拠点(憩いの場)となるし、校区福祉委員会と連携したとりくみや地域防災に関連するとりくみ、また、フェス夕(祭り)、花見、成人式等の地域行事などのとりくみがある。


「地域に開かれた学校づくり」の意義

「地域に開かれた学校づくり」の意義としては、次のことがあげられる。

  1. いろいろな大人の行動を身近に見たり対話したりする環境のなかで、子どもは必要な社会規範や人権を学ぶことができる。

  2. 地域の大人自身も、子どもとの関係のなかで、やりがいや、さまざまな「気づき」が生まれやすいし、教育(学校)ヘの関心の高まり、地域の教育力の高まり(エンバワメント)の可能性を開ける。さらには、そうした「子縁」を通じた新たな結びつきとしての「教育コミュニティ」形成のきっかけともなる。

  3. 教員も地域の人の力を得て、子ともにより有効な働きかけができるし、見落としている子どもの良さや力を認識できる。また、地域との信頼関係をつくるなかで、学校の再生を追求できる。

  4. このようなとりくみは、同和教育を人権教育へと継承・発展させたものと言える。同和教育では「地域の現実に学ぶというスローガンで、部落の親が仕事や生い立ちを語るということで学校教育の場に登場したり、子どもが部落のフィールドワークを行うといったとりくみがされてきた。
    「地域に開かれた学校づくり」では、部落を含めて校区すべての人が、差別問題など多様な内容で継続的・日常的に登場することで学校教育全般に関与するとともに、子どもたちも校区全体をフィールドにしてさまざまな学習を展開できるという点で、同和教育の成果を人権軟育として全面的に発展させることができる可能性がある。

部落間題解決にとっての意義

部落間題解決にとって、「地域に開かれた学校づくり」は、次のような意義がある。

1.部落内の子育て

  1. 部落内でも少子化はすすみ、他方、かつての共同体的側面は後退している。部落の場合も、親が中心になって子育てにかかわるという枠組みから、部落ぐるみで子育てにかかわるという枠組みに発展させることができる。
  2. 部落内外の「しんどい親」も、さまざまな形で学校に登場するという「体験」を通して、教育への関心を高めていく契機をつくることができる。
  3. 部落の大人だけでなく、校医全体の大人がかかわったほうが、多様な価値観をもった人が、より多く部落の子どもにかかわることができる。
  4. 子育てをはじめ、いろいろなことで部落外との接触が生まれ、部落の大人もいい刺激を得ることができる。

2. 人権意識の向上にとって

  1. 子どものために、地域のために、「開かれた学校づくり」をすすめるという共通目標を共有できる。これは地域の多様な大人が、自分のやりたいことで自発的にかかわるという点で、これまでの「青少年健全育成」とは大きく違う。
  2. 共通目標の実現をめざし、部落と部落外の人がともに「汗をかく」こと(協働)が、生活体験レベルでの信頼関係を強めていくことができる。
  3. これらの土壌が豊かになればなるほど、偏見や差別の克服も、より建設的,対話的な形ですすむ可能性が大きい。
  4. 以上のような意味では、「開かれた学校づくり」のプロセス自体が、人権教育と言える可能性をもっているし、そのような質を追求する必要がある。

  すなわち、教育(学校)を通じて「人権のまちづくり」が始まる、という点で、「地域に開かれた学校づくり」のとりくみは、部落解放運動にとって戦略的課題であり、これまで培ってきた解放教育運動の経験を発揮できるという意味では、まさにわれわれの「出番」だと言える。


今後の課題

  1. 必要な、楽しい「汗」をかくことをいとわないこと。
  2. 教科内容を子どもに教えるだけではないという意味での、学校(教員)の価値観の転換が必要だ。
    コーディネータ(地域連携担当者)が重要になる。
  3. 地域の諸団体のまとまり。既存の団体だけではなく、さまざまな組織、個人の参加が必要だ。
    ここでもコーディネータの存在が重要になる。
  4. 行政の縦割りの克服と有効な支援が必要だ。
  5. 厳しい課題をかかえた人びとの参画とエンパワーを図ることが必要だ。

部落解放研究第37回全国集会
第9分科会「地域の子育てと人権教育の創造」報告より