今年度最終の教育コミュニティ研究会を開催し、学習会と会員相互の情報交流等をおこなった。本欄では、学習会で報告された「英国における教育コミュニティへの関心―拡張学校(extend school)の実験」についてその概要を報告する。
「拡張学校」とは、現在、英国で進められている教育コミュニティづくりの国家的なプロジェクトで「子ども・保護者、コミュニティの成員のニーズに応じて様々な活動やサービスを提供する学校の総称」とされている。そこで提供されるサービスには、子ども向けのクラブ活動や補習クラスもあれば、成人対象の保育、ヘルスケア、IT等の生涯学習等、さらに就職指導やコミュニティカフェの運営まで、様々なものが含まれている。
重要な点は、この「拡張学校」の発想が「コミュニティを学校教育に貢献させるのではなく、学校がコミュニティに貢献しコミュニティの生活や教育レベルを高めることにより、その恩恵がめぐりめぐってコミュニティの一員でもある学校やその子どもたちにも返ってくる」ものとして考えられている点であろう。
現在、全英で106校がパイロット校として国から財政支援を受けながら実践を進めているというが、今回の報告で紹介されたニューキャッスル市のモンタギュー小学校の事例はきわめて興味深いものであった。校区の失業率は40%を超え、70%の子どもたちが無収入の世帯で暮らし、単親の子どもたちも40%を超えるこのコミュニティにある学校を「拡張学校化」するために、総額3億円に近い資金を投入し、ハード・ソフトの両面から様々なサービスを開始し、フルタイムのコーディネーター職員も配属したというのである。
この「拡張学校」による成果として、子どもたちの学力や態度に改善が見られたとか、住人たちが自らのコミュニティにプライドを持つようになり、コミュニティへの関与の度合いが高まった等の報告がなされているが、実際にはこの「拡張学校」は2002年以降に着手された新しいプロジェクトであり、その具体的な検証は今後を待たねばならないだろう。
ただ、「拡張学校」のプロジェクトは社会的に不利な条件に置かれたコミュニティの再生を射程においた国家的な規模による壮大な実験といえるものであり、今後ともその動向に大いに注目すべきであろう。その背景には、昨今注目を集めている社会的統合(social inclusion)の思想が横たわっていることを見ておかねばならない。
※ 教育コミュニティ研究会としては、英国におけるこの「拡張学校」の今後の展開とともに、アメリカにおけるフルサービス・スクール(池田寛編著、『教育コミュニティづくりの理論と実践』)の動向等、世界的な教育コミュニティづくりの実践について広く学び続けていくことの大切さをあらためて確認したところである。
なお、「英国における教育コミュニティへの関心―拡張学校(extend school)の実験」(林崎和彦)は部落解放研究第165号に掲載される予定である。
(文責・事務局)
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