2005年4月第61会期人権委員会は、人権小委員会における職業と世系に基づく差別に関するテーマに対し、特別報告者の設置を承認した。報告者には、横田洋三委員(日本)・鄭鎮星委員(韓国)が任命された。この承認を受け、部落解放・人権研究所は、去る6月4日に、大阪人権センターにおいて「第1回職業と世系に基づく差別に関するプロジェクト」を開催した。
第1回会合では、本プロジェクトの幕開けとして、特別報告者に選出された横田洋三さん(中央大学法科大学院教授)が、当該差別問題に関する国連の役割、特に人権小委員会及び特別報告者の役割について、自らの経験に基づき述べたうえ、本プロジェクトに対する期待について報告した。
横田さんからは、1.人権小委員会の役割とこれまでの歴史的概要、2.当該委員会での「職業と世系に基づく差別」に関する議論の歴史的背景と現状、3.本年度(2005年)に特別報告者として任命された横田・鄭委員の役割ならびに人権小委員会にて2007年提出予定の最終報告書に関する具体的取り組みについて報告がなされた。
とりわけ、特別報告者の役割と最終報告書作成のための具体的取り組みに関し、横田さんは幾つかの提案をおこなわれた。以下に横田提案の概要を示す。
- 今回の特別報告者任命に当たり、今後、最終報告書制作を促進するために、本プロジェクトを効果的に活用したい。
- 3年以内に原則とガイドラインが制定されるよう促進する。特に、適当な機会を設けインド、アフリカの当該差別に直面する当事者や政府を招聘し、効果的な原則及びガイドライン作成に努める。
- NGOの協力も得て当該問題を抱える諸国に質問票を作成し送付する。
- プログレス・レポートを作成する際、これまでの当該問題に対して行ってきた調査の内容や成果を組み入れる。レポートは簡潔にまとめる予定であるが、とくに、1. それぞれの国の状況、2. その状況に対する各国政府の対策と対応、3. 各国政府がとるべき今後の政策、に焦点を当て作成する。
- さらに、人権救済に関する各国の人権委員会のメカニズムと実効性に関する調査を行う。
- 人権教育の世界プログラム、特に初等・中等教育学校制度における人権教育促進に関する各国の動向と現状を把握する。
- 2007年制作予定の最終報告書に関するワーキング・グループを構成する。
今日、国連の場において「職業と世系に基づく差別」に関する議論は、それぞれの機関内で議論を進める問題ではなくなり、国際機関、国家、市民社会が相互に共同することで当該差別撤廃へと乗り出した。
今後、横田・鄭両特別報告者が人権小委員会に提出予定の最終報告書がいかに実効的なものとなるかが注目される。このような動向の中、世界各地の被差別当事者が日々直面する差別の実態を明らかにし、当該差別撤廃へ向けた実効性のある報告書作成に貢献するため、研究所の「職業と世系に基づく差別に関するプロジェクト」は、重要な役割と責任を果たすことが期待されている。
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