〈第1報告〉
第2回「職業と世系に基づく差別」に関するプロジェクトが9月5日(月)、大阪人権センターにて開催された。今回は報告者に、前回に同じく横田洋三さん(中央大学法科大学院教授)、さらに村上正直さん(大阪大学国際公共政策研究科教授)を迎え、活発な討議が行われた。
はじめに
横田報告は、「職業と世系に基づく差別」に関するテーマが本年第57会期の人権小委員会(以後、小委員会)でどのように取り上げられたかについて紹介なされた。とりわけ、横田委員とチョン(韓国)委員が本年、当該問題の特別報告者として任命されて以降、初めて小委員会に提出された報告書についての説明があった。
さらに、多くの国々の政府、NGOや国連機関等の「職業と世系に基づく差別」に対する働きかけを特定化することを主な目的とする質問票(報告書の最後に記載)について説明された。その後、国連事務局を通し開催される当該問題に関する地域セミナーの予定候補地(アジアとアフリカ)があげられ、特別報告者としての今後の役割が示された。
一方、国連改革が行なわれると人権委員会が人権理事会となり、その下部組織である小委員会の存亡や特別報告者の存続、さらに本差別問題がどのように取り扱われられるか不透明であるという懸念が示された。
〈第2報告〉
村上報告では、人種差別撤廃条約でdescentという言葉がどのように定義づけられてきたかに関する議論について、人種差別撤廃委員会(以下、CERD)、インド政府、日本政府などのそれぞれの立場が紹介された。CERDは日本の部落差別やインドのカースト制度に基づく差別がdescentの中に入ると捉えるが、インド・日本両政府は当該差別をdescentの中に含まないとする見解をとる。
これに対し村上さんは、第1に、人種及び皮膚の色ならびに民族的出身及び種族的出身はすべて出生に基づくこと。第2に、部落差別、カースト差別さらに黒人差別は、差別の禁止や特別措置等を必要としている点で同じであること。第3に、CERD によるdescentの解釈は、人権小委員会や国連人権高等弁務官の立場と同じであること。
最後に、部落差別やカースト差別が条約の適用対象となったとしても、不都合はないこと、とするこれら4つの観点より、部落差別とカースト差別がdescentの中に含まれるとしCERDの見解を擁護した。
以上、両報告から、国連の諸機関における「職業と世系に基づく差別」に関するこれまでの討議、現状が明らかにされ、当該問題に関する今後の展望に対する幾つかの視座が示された。国連機関にて当該差別問題が活発に議論されるようになった背景として、当該差別に直面する当事者が、現状を認識し、自らの尊厳に目覚め、当該差別撤廃を目指し、国連諸機関、政府、市民社会へ積極的に働きかけてきたという事実を忘れてはならない。
本プロジェクトの1つの課題は、このような働きかけを実効性のあるものにしていくため、当事者と非当事者との更なる対話を促しながら、各国における司法、立法、行政面での新たな基準設定を創出していくことであるといえよう。
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