報告者は、イギリスの元キール大学助手の中村隼人さんと、国連人権小委員会「職業と世系に基づく差別」に関する特別報告者の横田洋三さんであった。
中村さんの報告はイギリスにおける南アジア系の移民社会におけるカースト問題がテーマであった。イギリスはかつて南アジア諸国を植民地支配していたため、同地域からの移民は伝統的に多い。イギリス全人口6000万人のうち、インド系の人口は100万人を超えるといわれている。留学目的で渡英し、学問や技術を身につけてイギリスに定住しようと志す人は多いし、インド系移民に門戸が広く開かれていた60年代、70年代に渡英をした人々の二世、三世も多い。中村さんの経験より、キャンパス内で南アジア系の学生たちの何気ない会話の中に、出身カーストへの強いこだわりやダリットへの偏見を示す言葉がみてとれるし、インド系移民は高位カーストの伝統的な踊りや食事慣習などでインドを表現しようとする傾向にある。インドにおいてはカーストによるダリットへのあからさまな差別が横行し、社会の仕組みの中に組み込まれているのに対して、移住先のイギリスではカースト問題は「微妙で捉えがたく」、人々は表面的には無関心を装っている。しかし、同じインド人同士でいざ結婚となれば、カーストの問題が浮上する。国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)が誕生したあと、インドにもUKダリット連帯ネットワーク(UK-DSN)が結成され、移民社会におけるカースト差別の問題に焦点を当てている。イギリス議会の議員を相手にダリット差別の問題についてブリーフィングを行ったりもした。こうした活動はまだ始まったばかりであり、その内容を深めるためにも今後が期待されている。
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