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2007.10.26
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職業と世系に基づく差別」に関するプロジェクト
2006年6月26日
1.「移民社会にみるカースト差別 イギリスからの報告・所感」

中村隼人(元キール大学助手)

 報告者は、イギリスの元キール大学助手の中村隼人さんと、国連人権小委員会「職業と世系に基づく差別」に関する特別報告者の横田洋三さんであった。

 中村さんの報告はイギリスにおける南アジア系の移民社会におけるカースト問題がテーマであった。イギリスはかつて南アジア諸国を植民地支配していたため、同地域からの移民は伝統的に多い。イギリス全人口6000万人のうち、インド系の人口は100万人を超えるといわれている。留学目的で渡英し、学問や技術を身につけてイギリスに定住しようと志す人は多いし、インド系移民に門戸が広く開かれていた60年代、70年代に渡英をした人々の二世、三世も多い。中村さんの経験より、キャンパス内で南アジア系の学生たちの何気ない会話の中に、出身カーストへの強いこだわりやダリットへの偏見を示す言葉がみてとれるし、インド系移民は高位カーストの伝統的な踊りや食事慣習などでインドを表現しようとする傾向にある。インドにおいてはカーストによるダリットへのあからさまな差別が横行し、社会の仕組みの中に組み込まれているのに対して、移住先のイギリスではカースト問題は「微妙で捉えがたく」、人々は表面的には無関心を装っている。しかし、同じインド人同士でいざ結婚となれば、カーストの問題が浮上する。国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)が誕生したあと、インドにもUKダリット連帯ネットワーク(UK-DSN)が結成され、移民社会におけるカースト差別の問題に焦点を当てている。イギリス議会の議員を相手にダリット差別の問題についてブリーフィングを行ったりもした。こうした活動はまだ始まったばかりであり、その内容を深めるためにも今後が期待されている。

2.「職業と世系に基づく差別に関する非公式協議(2006年3月ジュネーブ)を踏まえた今後の方向について」

横田洋三
(中央大学教授、国連人権小委員会「職業と世系に基づく差別」の撤廃に関する特別報告者)

 次に人権小委員会委員で「職業と世系に基づく差別」の問題の特別報告者である横田洋三さんより、創設されたばかりの国連人権理事会と国連におけるこの問題の取り組みの現状と今後について報告を受けた。人権理事会の第一会期は2006年6月19日に始まり30日に終了する予定である(2006年6月23日現在)。初代の47理事国には日本、中国、インドなどが入っているが、理事国は30カ国以下に抑えるべきだと主張したアメリカは今回立候補はしなかった。国連には他に国連憲章で規定されている安全保障理事会や経済社会理事会があるが、人権理事会を同等にするには憲章改正という時間のかかる作業が伴なうため、国連総会の補助機関として創設された。前身である人権委員会は経済社会理事会の下部機関であった。総会の下部機関としてはおそらくトップに位置付けられる人権理事会の創設は、国連における人権保障体制の強化と合理化の推進、旧人権委員会でみられた政治対立的な議論の克服を目的としているが、果たしてどこまでそれらが達成されるかは未知数である。第一会期は儀式的なプログラムが多数あり、理事国の資格や理事会の開催など、手続的・技術的な議論が続いている(本会合現在)。準備不足で出発した理事会には今後決めなくてはならない事項が山積されている。人権小委員会についても何も議論されず、特別手続きについても重要だという確認があっただけで議論がないまま理事会がスタートした。毎年8月には人権小委員会が開催されていたため、今頃には日程や準備すべき報告書などについて事務局より通知があるが、今年(2006年)は8月に開催すると決まっているだけだ。「職業と世系に基づく差別」に関して関係国政府や関係NGOにアンケート調査を実施(2005年12月)したが、そのフォローアップもされないまま、2006年1月に締め切られた。重要なアジアの国の政府からは無回答であった。ただしアジアのNGOやIMADRはしっかりとした回答を送ってきた。国連決議に従ったこの問題に関する原則と指針案作りも具体的な日程が定まらないまま中座している。部落問題は「職業と世系に基づく差別」に入らないとしてきた日本政府も、2005年の人権委員会におけるこの問題の議論では、サポートしてくれた。人権理事会においてもこれを主要テーマとして取り上げるよう積極的に支持してくれることが望まれる。IMADRやIDSNの人権NGOのこれまでの努力と成果を無にすることなく、国連の場において「職業と世系に基づく差別」の撤廃に関する原則と指針が採択されるようになることを願う。

(文責:小森恵)