ダリット女性は、カースト制度のもとでのダリット差別、女性差別、地主や資本家から搾取される労働者としての差別など複合的に差別をうけてきた。上位カーストのブラーミン文化は浄・不浄の観念に基づく差別の慣行を広く定着させ、とりわけダリット女性は最も不浄なものとして扱われてきた。それを端的に表しているのは「マタマ」の慣行である。ダリット少女が村のヒンドゥー寺院のマタマの女神に治癒の目的で捧げられ、病気が治ればマタマと契りを交わしたとして一生結婚を許されず、寺院の祭りでの踊りや他のカースト男性の買春相手として生活していかなくてはならない。
経済のグローバル化は農村に集中するダリット女性にもじわじわとその影響を及ぼしてきた。政府は地主と一体となって農地を多国籍企業に売却し、これまで農業労働者として低賃金で使われてきたダリット女性たちからその仕事さえ奪いつつある。輸出用に花栽培がもてはやされ、栽培農家が急速に増大する中、ダリット女性たちは安い労働力として使われ、農薬散布された畑で無防備なまま働き、健康を害している。輸出用の海老・魚の養殖池も政府の規制を無視して進んでいる。養殖用の処理薬のたれ流しで、ダリット女性たちが働いてきた周辺の畑や川は汚染され、仕事ができなくなっている。歴史的、文化的差別の構造の重圧をうけてきたダリット女性は、今、グローバル化という新植民地主義により、新たな差別にさらされている。
このような中、私たちはダリット女性の意識化と組織化を進めてきた。「マタマ」の解放運動はマタマ女性だけではなく、それを支えているダリットの村人たちへの意識化運動へと徐々に広がっている。部落解放・人権研究所の安田識字基金により、マタマ女性のエンパワメントのプログラムも進んでいる。反差別国際運動(IMADR)との連携で、ダリットの子どもたちのデイケアセンター 建設も進めてきた。また、同じようにグローバル化の代償にされているアジアの農村女性との連帯活動も始まった。こうした活動を通して、私たちはダリット女性の解放を今後も進めていく。
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