調査研究

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2007.11.29
部会・研究会活動 < 教育・保護者組織の現状と課題調査研究事業>
 
「教育・保護者組織のあり方」研究会 報告
2007年10月17日

「教育保護者組織に関する調査の中間報告」

報告:1.中村清二(部落解放・人権研究所研究部長)

2.木村和美(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)

3.高田一宏(兵庫県立大学)

 この間、大阪の中城、道祖本、高槻富田、日之出、和泉、松原の6地区の保護者組織や青少年会館・学校との関係等の現状を訪問調査してきた。その中間報告が以下のような概要でなされた。

(文責:中村、木村、高田)

〈第1報告〉

 初めに中村清二より現状について、1.継続して存続している保護者組織:中城、日之出、松原、2.青館利用者の保護者会として再構築した保護者組織:高槻富田、3.保護者組織の解散後、新たに立ち上げた保護者組織:道祖本、4.保護者組織の解散後、新たな教育運動を模索中:和泉、の4タイプに分類して、各地区ごとの活動の多様な現状、課題、青館・学校との関係、校区全体の動きとの関係の具体的な実態が報告された。

 そして、こうした現状の多様化は、1990年代以降の保護者組織の「受給者的組織」から「子育て(親育ち)支援組織」への脱皮という課題を、1.特別対策から一般対策への移行・特別措置法失効という行政施策の枠組みの変化(1995年度の義務教育特別就学奨励費の廃止、2001年度の府「地域青少年社会教育総合事業」による青少年会館の一般利用、府単独の同和加配教員廃止・国の同和加配教員から児童生徒支援加配への移行)、2.第3期の解放運動の志向と部落内(社会全体)の階層分化の急速な進行、という大きな変化の中で具体化していく途上、生じてきている。

 そして多様化している保護者組織の現状から、今後の基本的な方向性を、1.部落問題を基盤とした子育て(親育ち)支援組織という組織性格、2.活動内容は毎月の定例会議や学習会・関係行事への参加、一般開放した青館事業の中での部落の子どもや青年の位置づけに左右されるがそれへの関わり、3.2.に規定されるが保護者組織の構成員は部落出身者だけか否か、4.学校や青館の保護者組織の定例会等への明確な関わりと公的位置づけの整理、5.青館による子どもや保護者組織への支援機能のための専門的技量をもつ人の配置、6.学校・保育所の学力保障や人権・同和教育の取組み内容における地区(保護者)との協働の重要性への認識、7.校区での教育コミュニティづくりにおける解放運動総体としての関わり方の整理の必要、といった点について整理していくことの必要性が提起された。

〈第2報告〉

 続いて木村和美さんからも報告が以下のような概要でされた。教育保護者組織の性格として1.受給者組織、2.子育て・親育て、3.運動体という3つが挙げられるが、今日における教育保護者組織活動の停滞を招いた要因として、1.は特措法失効によって弱まり、2.はサークル活動化し参加層の偏りが見られ、3.はこれまで活動の中心であった安定層の運動離れや若い層の部落問題意識の希薄化があることが報告された。そしてこれら3つの性格の中でも受給者組織としての性格が全面にでていたため、法失効の影響を強く受け、停滞を招いた可能性が高いことが指摘された。

 しかし受給者組織としての様相が強かったとしても、教育保護者組織の活動の場において保護者同士のつながりや世代を超えた交流がなされ、地域における子育て・親育ての基盤となっていたことは高く評価できる。家庭教育支援が教育課題として挙げられる今日、教育保護者組織は「子育て・親育ての場」として重要な役割を果たすことが期待される。

 しかしながら、この間の訪問調査において、教育保護者組織への学校や青館からの支援が十分ではないという現状が明らかになった。この点を改善していくためには、今後、活動に参加している保護者たちが教育保護者組織を「部落問題を基盤とした子育て(親育ち)支援組織」として強調していくことはもちろんのこと、学校、青館側が教育保護者組織を旧来の「教育守る会」ではなく、新たな枠組みで認識することの必要性が提言された。

 また、かつて青館指導員が行なっていた地道な家庭訪問や、電話、声かけなどの日常の継続的なふれあいが地区内における信頼関係をつくり、その信頼関係によって様々な活動への人々の参加・協力が得られていたと考えられるため、今日的な条件の下でも工夫して実施することの重要性が指摘された。

〈第3報告〉

 高田一宏さんからは、「これまでの調査を振り返って」という題で次のような概要の報告が行われた。

 最近の調査から。2000年の大阪府「同和問題の解決に向けた実態等調査」によれば、教育保護者組織の中核を担っていたのは公務員層をはじめとする生活安定層であった。現在の部落では、生活困難層の固定化がすすむとともに、安定層の地域教育活動離れがすすみつつある。訪問調査をおこなった6地区は、そうした困難な状況のなかで、地域教育運動の再活性化を模索している好例である。また、2006年度の大阪府教委「学力等実態調査」によれば、校区に部落のある学校の地域・家庭との連携は非常に活発である。連携活動は学力に直接影響するわけではないが、子どもの「問題行動」を減らしたり、子どもの生活リズムや学習習慣を形成したりするうえで大きな意味がある。教育保護者組織の活動を連携の促進という観点から再評価する必要がある。

 今後の調査研究の課題。教育保護者組織じたいの活動状況にくわえ、就学前保育・教育の体制、子ども会・学童保育事業・「子どもの居場所づくり」事業の関係、学校や青少年会館と教育保護者組織の連携、地域におけるNPOやボランティアの活動について、くわしい実態把握が必要である。また、理論的には、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の蓄積やエンパワメントの観点から、教育保護者組織の在り方を検討することが求められている。

 報告後の意見交換では、調査研究の理論枠組みがまだまだ不明確なことを感じた。また、教育不平等が拡大している今日、社会的不利益層に対する「子育て・親育て」支援の事例として、教育保護者組織の活動を普遍化する必要性も感じた。