第2章「高卒フリーターの『学校から職業生活への移行』」では、高卒フリーターの「学校から職業生活への移行」過程に着目し、彼/彼女たちがフリーターへといたる経緯とその要因を探ることを目的としている。
彼/彼女たちは、いわゆる「進路多様校」を卒業し、その後進学せずに何らかの「職業生活への移行」がみられ、現在フリーター状況にある点は共通している。一方で、現在のフリーター状況に至るまでの経緯は、大別すると‡@高校卒業後に進学も就職もせずフリーターへ、‡A高校卒業後に就職し、その後退職してフリーターへ、という2つのルートがみられた。
このようなルートを考えた場合、高校在学中の進路決定プロセス、とりわけ「高卒就職」制度への対応が、フリーターにいたるプロセスに大きく影響していると考えることができる。そこで、彼/彼女たちがなぜ「進路多様校」に入学し、なぜ進学しなかったのか、そしてなぜ「高卒就職」したのか/しなかったのかを探ることを第一の課題とした。
「高卒就職」制度から就職をした層では、高校入学以前から高卒後には「進学しない」と考えていた若者や、経済的に「進学できない」という状況を受け入れていた若者が、就職に対して方向づけられていた。ただし、日本社会における就業構造の変化の中で、「高卒就職」できる職種・企業は著しく限定されていると考えられる。そのなかで、彼/彼女たちはあまり「こだわる」ことなく応募先を決定していた。職業生活についての将来像と、学校に来る求人票での職種・企業がマッチした場合のみ、応募先については「こだわらない」決定が可能となり、まさにそのことが「高卒就職」制度での初職入職の条件として大きく影響していると考えられる。
一方で、高校卒業後に進学も就職もしない、いわゆる「高卒無業者」の増加が指摘され、今回の対象者にも多くみられた。ここでは、次の3つのパターンから彼/彼女たちの進路選択を捉えた。‡@経済的に厳しい状況におかれるなかで進学希望から就職希望へとシフトするも、就職に「失敗」してしまったパターン。進学が許されない状況での「高卒就職」の「失敗」は、フリーター状況へと追い込まれることを意味している。‡A就職するからには、その就職先で長い間継続して勤務しなければならないという「就職」観のなかで、「就職」に対して安易に踏み込むことができず、「やりたいこと」を追求するパターン。フリーターとなった現在でも「やりたいこと」が重視され、彼/彼女たちは自ら「就職」に対してハードルをおいていることになり、フリーター状況からの脱出が難しくなるといえる。‡B「高卒就職」制度と関わりをもたずに、自らの力とルートで就職を試みているパターン。「高卒就職」制度からの就職か、そうでなければ進学するかという二者択一の進路指導枠組みのなかで、彼/彼女たちは学校による指導自体にのらない「職業生活への移行」を試み、支援制度のない状況で一般労働市場での求職活動を経験することになる。
また、「高卒就職」した若者がなぜ離職しフリーターとなったか、そしてどのような将来像を描いているかを把握できるのが、今回の調査の利点であり、それを第二の課題とした。退職の理由では、「住み込み」で働くことや転勤を求められたこと、また職場での経験が賃金に反映されないことなどが語られた。いずれも、職業生活の「現実」に触れ、その「現実」と折り合いをつけることができずに退職という選択にいたったといえる。そして、「次」の就職では、将来的な「安定」こそが最大の条件として語られるが、その「安定」を求めてハローワークでみる一般労働市場の求人では職業経験や資格の有無が重視され、いずれにおいても不利な立場におかれている彼/彼女たちにとってはハードルが高く、「安定」を求めれば求めるほど就職が難しい状況におかれているのである。